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吉村 昭 長英逃亡 新潮文庫 [日記(2005)]

 日本沿岸には多くの外国船が現れて幕府に通商と外交を迫り、ヨーロッパ列強によるアジアの植民地化が進む時代である。
 蛮社の獄で捕らえられた蘭学者高野長英は、兵書の翻訳を志し、牢に火を放って脱獄を企てる。北は岩手の前沢から南は四国の宇和島まで6年間の逃亡生活おくる。高野長英の脱獄と逃亡の物語である。
蘭学の物語でないところが、吉村 昭らしいところかもしれない。
あとがきに、「執筆に先立って、長英の生涯のうちどの期間に焦点をしぼって書くべきかを考え、長英が人間らしく生きたのは、永牢の刑(終身刑)で小伝馬町の牢に投じられた後、脱獄し、そして捕らわれて死にいたるまでの歳月だと知り、その経過を書くことにした。」とある。吉村には「破獄」「熊嵐」「漂流」「大黒屋光太夫」など異常をあつかった小説があるが、「長英逃亡」もこの系譜につらなるものであろう。
 長英は蘭学者のネットワークに守られて逃亡するわけだが、どうしてこうも都合よく、日本各地に長英を助ける人々が現れるのか不自然さを感じる。長英は脱獄、放火教唆の犯罪人であり、捕まれば火刑である。友人、弟子などは匿い逃亡を助けることは分かるが、何の義理もない人々が危険を犯してまでなぜ長英を助けるのか。吉村 昭にしては少し勝手が違うと感じたが、あとがきによるとほとんどが史実であるらしい。一面識も無いにも関わらず、子分が入牢中に助けられたことに恩義を感じ、長英の逃亡を助ける博徒の親分忠吉までも実在の人物である。
 おどろくのは、この時代の日本各地に多くの蘭学者、蘭法医が存在していたこと、「蘭学者」長英を匿うことに価値を見いだす知識人(読書人)の層の厚さである。長英を主人公とした逃亡の物語であるとともに、長英の逃亡を助けた庶民の物語でもある。

★★★★☆

高野長英記念館 →http://www.city.mizusawa.iwate.jp/syuzou01/
著書「救荒二物考」には、ビールの醸造法が書かれているらしい。
  →http://www.kirin.co.jp/company/history/soseiki/takano.html

長英逃亡 上 (1)

長英逃亡 上 (1)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 1984/09
  • メディア: 単行本


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