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ウンベルト・エーコ 薔薇の名前 [日記(2005)]

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉

  • 作者: ウンベルト エーコ, ウンベルト エーコ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本


ウンベルト・エーコ 薔薇の名前 (東京創元社)★★★
 舞台は14世紀初頭、北イタリヤの山上の僧院で自殺とも他殺と知れぬ修道僧の死で幕を開ける。折しも僧院を訪れた修道士ヴァスカルのウィリアムとその弟子アドソの二人が事件の解決を依頼される(二人はホームズとワトソンに擬されているらしい)。祈りと静謐の僧院のなかで、第二、第三の殺人が起こり、次々と謎の人物が登場し、迷宮あり暗号あり毒薬に悪魔崇拝、異端審問、果ては恋まである推理小説が中世世界を背景に展開する。と書けば面白い推理小説の様だが、作者は記号論を講じるボローニャ大学教授であり、全世界で一千部以上売れ映画化までされたが、中身は晦渋、一筋縄ではいかない。私の様にヨーロッパ中世とキリスト教に詳しくない方は、上下二冊買い求め、下巻の訳者解説から読まれることをお勧めする。
 読後感はいろいろあるが、どちらかというと推理小説より「文学」小説を読まされた気分である。
 ひとつだけ挙げるとすれば、物語のテーマのひとつである正統と異端の問題が興味深い。物語の中で、富と権力を持つ教皇(教会)に対して、キリストは私有財産を否定したと考え、キリスト者は清貧であるべきだと主張する異端「厳格主義派」と、異端を吸収したドルチーノ派の「禿げた絶壁」での教皇(正統)との抗争、異端審問にかけられ火刑にされるドルチーノとその一派が語られる。その抗争に加わり、逃亡して今は舞台となる僧院に潜り込んだサルバトーレとレミージョの異端審問で物語の現在にテーマが持続される。結局二人は異端審問にかけられるのだが、エーコ教授は中世カトリックの異端と正統の物語で、現代の異端と正統のまやかしを語りたかった、といえば安易すぎるのか。主人公ウィリアムが元異端審問官として設定されていることが象徴的である。
 解説に、「『薔薇の名前』には読み解くべき物語が重層的にはめこまれている。読者は、豊かな読書経験を持てば持つほど、たくさんの物語をこの小説のうちに見出すであろう。」とある。
読書経験と能力のない私としてはこの辺りで引き下がることにする。

蛇足
ショーン・コネリーがウィリアムに扮する、映画「薔薇の名前」も面白い。
サルバトーレのロン・パールマンははまり役!異端審問官ベルナール・ギーに扮するのは、「アマデウス」でサリエリを演じたF・マーレイ・エイブラハム。これも気に入っている。

薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈下〉

  • 作者: ウンベルト エーコ, ウンベルト エーコ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本


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ハーポ

 1度途中挫折した本ですが、この文章でもう1度チャレンジしてみましょうかね~・・・
by ハーポ (2009-12-19 23:50) 

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