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吉村 昭 ふぉん・しいほるとの娘 [日記(2007)]

ふぉん・しいほるとの娘〈上〉

ふぉん・しいほるとの娘〈上〉

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 文庫


 幕末、鳴滝塾で多くの蘭学者を育てたオランダ医師「シーボルト」、長崎遊女「其扇(お滝)」、ふたりの間に生まれた日本で最初の女医「お稲」の三人の物語である。シーボルトはオランダ医学の伝導者であるとともに、日本地図を海外に持ち出そうとして国禁に触れ国外追放となる。これをシーボルトの個人プレーと理解していたが、本書ではシーボルトをオランダ政府が派遣したスパイ、と云って悪ければ情報将校と位置づけている。当時、対日貿易は中国とオランダの独占であり、この地位をより確固たるものする目的で、医家で地理天文、動植物学にも通じた「ドイツ人」シーボルトを派遣し日本国情の調査に当たらせた。シーボルトが日本の国情調査の任を帯びて来日した以上、起こるべくして起こった事件かもしれない。(本書によれば)事件の発端が皮肉にも最上徳内(蝦夷探検家)であり、この発端から決着までをシーボルトの江戸参府の模様、江戸蘭学者との交流、当時の捜査と司法の在り様など興味深く描かれている。
 前段のシーボルトの来日から離日の5年間の描写は、遊女其扇(お滝)をはじめ日本人蘭学者・医師との交情、鳴滝塾の創設などが、長崎の四季と風俗とともに詩情豊かに描かれる。この前段だけで、一遍の小説として十分成り立ち得る。紫陽花がシーボルトによってヨーロッパに広められたこと、紫陽花の学名にHydrangea otakusaと「お滝(お滝さん →オタクサン →イタクサ)」の名が込められていることは有名であるが、作者はこの経緯を物語のかたちで膨らませた感がある。「オタクサ」の名が作者をしてこの物語を書かしめたかの様である。
 後半は、シーボルトとお滝の間に生まれた娘「お稲」の物語である。碧い眼を持つ自らをアイノコ(混血児)と位置づけ、人並みの女のとしての幸せを拒絶し、父シーボルト同じ医師として道をあゆもうとする姿を、作者は開国と攘夷に揺れる混乱した世情ととともに冷静に描く。

 異国の地で西洋医学の種を播こうとするシーボルト、生家の没落によりオランダ遊女となり、シーボルトと出会うお滝、日蘭混血児としての宿命を負って医学を志すお稲、三人と三人を取り巻く人々の(能動的、受動的であるを問わず)生き様を通して、19世紀末日本の姿が感動的に描かれる。

「海の史劇」とともに「吉村昭」お勧めの一冊 →☆☆☆☆☆

長崎・シーボルト記念館 →http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/siebold/
オランダ・ライデン・シーボルトハウス →http://www.sieboldhuis.org/
ドイツ・ヴュルツブルグ・シーボルト博物館 →http://uploader.wuerzburg.de/siebold-museum/en/museum_info.html


我が家のHydrangea otakusa


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