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トーマス・フリードマン フラット化する世界(下) [日記(2007)]

フラット化する世界(下)

フラット化する世界(下)

  • 作者: トーマス・フリードマン
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 2006/05/25
  • メディア: 単行本


 フリードマンは、フラット化した世界を「競技場」と書き、そこには新たに30億人が殺到する未来で第1部を閉じました。第2部ではこの競技場で生き残るために、フラット化した世界で個人が如何対処すべきか、から説き起こします。西欧、アメリカ、日本の占有物であった「競技場」に、ITテクノロジーを通じて中国、インド、ロシア等の個人が参入してくるわけです。
 インターネットと検索エンジンの発達で、知識は学校や図書館から解き放たれ、インフラさえ整っていれば、中央アジアの僻地からさえ世界の知の最前線を知ることができます。学ぶ努力と能力さえあれば、誰もがこの「競技場」で平等に戦うことができるわけです。そして、「先進国」の人々は、過去とは比べものにならないほど多くの競争相手とこの「競技場」で戦わなければならなず、経済の世界では人件費というハンディーを背負って戦うことになります。同じスキルであれば、人件費の安い国にアウトソーシングされ、オフショアリングされてしまうわけです。著者はアメリカ人として祖国の行く末に強い危機意識を抱きます。
 フラット化された世界で個人が生き残っていくための方法、どんな才能が生き残れるか、どんな才能を育てるべきか、を説きます。「IQよりもCQ(好奇心指数)とPQ(熱意指数)が重要」「人とうまくやる」「右脳の資質」とか比較的常識的ですが、生き残る才能を植える教育の問題にも及びます。甘やかされて育った今の若い奴らは、中国やインドの若者相手にこの「競技場」でまともに戦っていけるのかと嘆き、戦えるスキルを身につけるために教育そのものを改めないととんでもない未来が待っているぞ、と脅かすわけです。また、子育てについても

「愛の鞭をふるう覚悟がある新世代の親が必要だ。ゲームボーイをしまい、テレビを消し、iPodを切って、子供たちに勉強させる潮時だ。」

分かるんですが、本書のテーマからするとこの辺りは結構常識的で保守的ですね。

 12章『フラットでない世界』で、著者はフラット化から疎外された世界を書きます。本書で何度も描かれるフラット化の象徴、インド・バンガロールのハイテクビル群から車で1時間の村には、
「子供たちが知っている『マウス』は本物のネズミだけで、コンピュータの横についているものでは」ない(ITと云う意味だけではない)フラット化の外の世界が存在するです。バンガロールの成功は、インド人口のたった0.2%、99.8%はフラット化の外にいるわけです。こうした人々は中国にも中央アジアにもラテンアメリカにもさらにアフリカには数多く存在します。むしろ『フラットでない世界』が世界の大多数です。『フラットな世界』の力でもって『フラットでない世界』をフラット化しなければならない、というのが著者の主張です。

 『フラットでない世界』をフラット化した場合の弊害、我々が直面する課題もちゃんと視野に入っています。現在フラット化した世界の一人当たりのエネルギー消費量は、そうでない世界の32倍だそうです。従って、フラット化が進むとエネルギー消費量が累積的に増え、環境破壊とエネルギーを巡る紛争の危機をはらんでいます。否応無く進むフラット化は、この問題を抜きにしては

デルの紛争回避理論
これなかなか説得力があります。従前理論が『紛争防止の黄金のM型アーチ理論』。黄金のM型アーチとはマグドナルドのことで、

「マグドナルドの店舗網が利益をあげられるくらいにミドルクラスが成長すると、その国は・・・もはや戦争を望まない。」
という理論です。これが発展して、『デルの紛争回避理論』が生まれました。

「フラット化した世界でのカンバン方式サプライチェーンの出現と普及は、マグドナルドに象徴される生活水準の全般的向上よりもずっと地政学的な冒険主義を抑止する効果がある。」

2002年のインド、パキスタン紛争や
なるほど。北朝鮮もイラクもアフガニスタンも、このサプライチェーンに組み込まれるはずはありません。

ミドルクラス(中流階級)
ミドルクラスという単語も本書の重要なkeyワードです。フラット化(グローバリゼーションと言い換えても同じです)を労働と消費の両面から支えているのがこのミドルクラスです。著者によると、ミドルクラスとは、

「ミドルクラスとは、貧困と低所得の生活から脱出し、より高い生活水準や子供たちのよりよい未来が得られる手立てがある、と信じている人々のことでもある。社会に流動性があり、子供が自分よりましな暮らしができる可能性があり、社会のルールに従って懸命に働けば希望がかなえられる、と信じることができれば、1日の収入が2ドルであろうと200ドルであろうと、ミドルクラスだという意識がもてる。」

このミドルクラスの存在が世界をフラット化する原動力であるといいます。確かに、『1億総中流階級』の意識で日本もフラットな世界へ突き進んできたのです。ワーキングプア、格差社会などの言葉が生まれる昨今の閉塞感は、「子供が自分よりましな暮らしができる可能性がある」と信じるミドルクラスの減少の兆しかも知れません。


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