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飯嶋和一 黄金旅風 [日記(2008)]


黄金旅風 (小学館文庫 い 25-5)

黄金旅風 (小学館文庫 い 25-5)

  • 作者: 飯嶋 和一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/02/06
  • メディア: 文庫


 全くの未知の作家です。毎日新聞の書評で

『「ハズレなし」と賞賛される飯嶋氏の作品のなかでも傑作である。・・・無数の逸話が毎頁にちりばめられた贅沢な読み物などはそうあるものではない。』

 ここまで書かれると読まないではおられませんね。Wikipediaをみると、飯嶋和一氏は直木賞候補にもなっているが、自分を育ててくれた小学館に恩義を感じて辞退しているということです。1952年生まれですから56歳、なかなか気骨のある方でしょうか。久々にアマゾンに発注しました。

 寛永5年(1628年)~同10年(1633年)の5年間、長崎を舞台にした歴史小説です。将軍は家光、長崎は朱印船貿易で反映を極め、出島は未だできていず、オランダは対日貿易の覇権をポルトガルと争い、キリシタン弾圧がやがて島原の乱を生むに至る頃です。本書にも書かれていますが、朱印船は和船ではなくジャンクだった様です。寺社に奉納された末次船の絵馬が残っているそうで、検索すると↓の画像が出てきます。本書に登場する末次平蔵は実在の人物です。末次船.jpg 末次船1.jpg
            末次船

渡航先もベトナム、タイ、カンボジア、マレー半島、ルソン島、台湾にわたり、日本における「大航海時代」を築いたというものです。シャムの山田長正もこの時代の人です。朱印船の渡航先を見るとこうなります。確かに「大航海時代」といえます。明は貿易を禁止していましたから中国本土への渡航はないわけです。中国の物産はオランダが台湾に運んで、朱印船が日本に運ぶか、琉球経由の薩摩の密貿易です。
マニラ航路.jpg
       17世紀の日本人の東南アジア進出
『黄金旅風』の前後を年表風にまとめるとこうなります。
1614年 キリスト教禁令
1616年 外国船
1622年 長崎大殉教
1623年 家光将軍職
1624年 平戸大殉教、イスパニア船来航禁止
1628年 黄金旅風開幕、タイオワン事件
1630年 鄭成功(7歳)平戸から福建省へわたる
1631年 奉書船貿易始まる
1632年 徳川秀忠没
1633年 黄金旅風閉幕
1634年 鎖国令
1633年 奉書船制度開始
1635年 鎖国実施、日本船の海外渡航禁止
1637年 島原の乱
1639年 ポルトガル船の来航禁止
1641年 出島にオランダの商館を置く
なるほど、朱印船貿易から奉書船貿易へと続く鎖国前夜に末次平左衛門が奮闘する様がよく理解できます。本書では徳川秀忠の死去がエポックになっていますが、これは読まないと分かりません。

さて物語の方です。
 登場するのは、長崎の町火消しの頭領・平尾才介、長崎の対外貿易の利権を握る末次平蔵の「放蕩息子」
平左衛門です。二人は平戸の教会付属セミナリオ(神学校)で、気に入らない修道士を半殺しの目にあ わせて追放となったという絆で結ばれています。才介はなかなか味のあるキャラクターです。この二人を軸に展開します。

 才介の部下である火消しの一人が行方不明になるところから、物語は動き出します。この火消しは、キリスト教の『使徒行録』を口伝で伝える20人の一人であったことが明らかになります。続いて末次平蔵まで殺され、これらの殺人の背後で画策する一団の存在が浮かび上がります。
ここから物語は一挙に動きだし、平左衛門VS.長崎奉行の構図に江戸幕閣を巻き込み、舞台は上地図同様の広がりを見せるというスケールの大きいものとなります。
 朱印船貿易で日本人がタイやベトナムに航海し、現地に日本人町が生まれる時代ですから、紛争もオランダやポルトガルなど外国を巻き込んだものとなり、時代小説としてスケールが他とは異なります。本書でも貿易の利潤と領土的野心から、島原領主松倉重政、豊後府内領主にして長崎奉行の竹中重義と末次平左衛門との闘いがが描かれていますが、当時の海外事情、貿 易の仕組み、外洋航行法などが丹念に描かれ、潮の香漂う海洋小説の趣があります。

 (本書によると)マニラ航路ひとつとっても、

男女群島 →石垣島 →与那国島と八重山島の間 →台湾とボテル・トバコ島の間 →バブヤン島(フィリピン) →ボヘアドール岬 →ボナリオ岬 →コレヒドール島(マニラ)

と、無寄港です!船も2本の帆柱と三角帆を持ったジャンク船で向かい風でも走り、遠洋航海にも耐えられ船倉と甲板を持った構造だったらしいのです。日和見と寄港を繰り返しながら沿岸を走っていた江戸期の和船とは、根本的に違うようです。誰でも考えることですが、鎖国もなくこの大航海時代が続いたなら、日本という国はどうなっていただろうとおもわずにはいられません。
 小説として面白いかというと私にとってはすこし好みに外れますが、日本の『大航海時代』を背景に船と貿易を題材にした小説として、楽しめました。
☆☆☆かな?

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