SSブログ

司馬遼太郎 春灯雑記 [日記(2010)]

春灯雑記

春灯雑記

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1991/10
  • メディア: ハードカバー
 『街道をゆく』を2冊読つみ、つられて司馬遼の未読在庫消化です。
 講演が3編、エッセイが2編収められていますが、なかでも『街道をゆく』のスコットランド版のような『仄かなスコットランド』、日本の『猿真似』を擁護したロンドンでの講演『義務について』が面白いです。

 スコットランドの話ですから、当然にメアリー・スチュアートが登場します。当時のスコットランド、イングランド、フランスの輻輳した婚姻関係を作家は『もつれた毛糸玉』と表現し、王位継承権を『変な数式』と書きます。メアリーがスコットランド女王にしてフランス王妃、イングランドの王位継承権を持つことを指しています。エリザベスⅠ世との確執で斬首されますが、刑場に現れたメアリーの出で立ちは、黒いマントの下は深紅のドレスだったといいます。メアリーに対する並々ならぬ思い入れがあるようです。
 最終章のロンドン講演『義務について』は、作家の真骨頂かもしれません。

 ドナルド・キーンのエピソードがマクラにきます。彼がケンブリッジで専門領域を聞かれ『日本文学』だと答えると、決まって『猿真似の国』の文学を研究することを不思議がられた、というものです。
 作家は、日本の『猿真似』に反論し文化の独自性を、ある時は韜晦、ある時は皮肉を交えて主張します。聴衆はイギリス人なのでしょう、壇上で孤軍奮闘する司馬遼さんを想像すると愉快です。

 『源氏物語』を世界に紹介した英国人アーサー・ウェリーで持ち上げておいて、万葉集が成立した7~8世紀の日本は『猿真似の国』から脱して独自の文化を築いていましたよ、その頃のイングランドはヴァイキングの侵略を受けて大変でしたね、とまことに皮肉の効いた言い方です。遣唐使や明治のお雇い外国人の例をひき、『猿真似』も自前で金を払ってやったのですよ、とやんわりいなしています。

 最後にやっと、ネルソン提督や平戸のイギリス商館長であったリチャード・コックスを登場させて、イギリスが生んだ倫理『義務(duty)』で持ち上げて終わりますが、痛快の一言。拍手です!


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0