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読書 浅田次郎 中原の虹(2) [日記(2011)]

中原の虹 (2) (講談社文庫)
 『中原の虹』 (1)では、『蒼穹の昴』の主人公・春雲(春児)の兄・春雷を狂言回しに、張作霖や張景恵、馬占山が馬賊として東三省で力を伸ばす物語でした。(2)では、西太后、袁世凱が登場し、戊戌の変法後の紫禁城の魑魅魍魎が描かれます。光緒帝も登場しますから、この皇帝暗殺の謎を作者なりに解決してくれるんだろうと期待します。

 何と、龍玉(ドラゴンボール)登場です。(1)で張作霖と春雷が乾隆帝の陵墓で見つけ、小説では長学良の玩具となっています。この龍玉を持つ人間が中原の覇者となるという伝説のドラゴンボール。光緒帝が袁世凱にこの秘密を明かし、あんたドラゴンボールを探して皇帝となってこの国を救え!と言うんですが、サービス精神旺盛な浅田次郎も、ここまでやります?
 ドラゴンボールはともかく、春雷、春雲の妹・玲玲と同郷の梁文秀も再登場し、『蒼穹の昴』の読者は拍手喝采でしょう。戊戌の変法で敗れた梁文秀は玲玲と日本に亡命しているんです。このふたりを東京で見守るのが、馬賊の襲撃に巻き込まれて張作霖、春雷と関係を持つ奉天清軍の軍事顧問・吉永将陸軍少尉の母。これは春雷、春雲、玲玲再会の伏線ですねぇ。

 (2)の主人公は、これはもう西太后でしょう。夫・咸豊帝や息子・同治帝を殺して権力を掌握し、光緒帝を即位させ垂簾聴政を行ったとか、あの有名な珍妃事件の首謀者であるとか、悪評高い西太后です。作者は、この西太后を末期清朝を支えた女傑として描いています。確かに、アロー号事件から清仏戦争、日清戦争、義和団事変と清朝が外国の脅威にさらされた時代に常に権力の中枢にいたわけですから、西太后は列強の侵略から清を守ったという解釈も成り立ちます。
 戊戌の変法にしても、一度は光緒帝を支持しますが、西太后暗殺計画を機にこれを潰し権力に帰り咲きます。自分が殺されるという以上に、西太后暗殺計画はいずれ光緒帝暗殺計画を生むという親心から戊戌の変法を潰したいうのですが、どんなもんでしょう。幽閉された光緒帝も西太后のこの親心を理解しているという設定です。

 死期を悟った西太后が最後に打った救国の施策とは、清国を自ら潰してしまうことでした。西太后は、自分が死ぬと戊戌の変法で消え去った権力が再び光緒帝を担いで復活し、そこへ列強がつけ込んで清国は分割され滅ぶと考えます。清国を外国勢力から守るためには、光緒帝を暗殺し、愛新覚羅の清国を一度潰して新しい皇帝による中華の国を作ることだというわけです。その新しい皇帝として誰に期待したのか?(2)では明らかにされないまま西太后は死にます。死の間際に、光緒帝を継ぐ皇帝としてわずか三歳の愛新覚羅溥儀を指名します。溥儀は、西太后の期待する新しい皇帝ではなく、清朝の幕を引く最後の皇帝としての役目を負わされたわけです。

 史実では、張作霖は日本軍によって爆殺され張学良も中原に覇をたてることができず、溥儀は最初で最後の満州国皇帝となります。作者はどう結末をつけるんでしょうか?

 『中原の虹』は、中国近代史を清朝と清朝の王族である満州族の両面から描いた物語です。地理上から云えば北京(紫禁城)と満州(奉天)、登場人物から云うと西太后、光緒帝、袁世凱VS.張作霖、作者の創造人物では春児VS.春雷ということになります。この虚実ないまぜとなったストーリーが本書の魅力ですが。小説中『禍福は糾える縄の如し』という諺を巡って論議がありますが、まさに虚実は糾える縄の如しです。

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