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青木冨貴子 ライカでグッドバイ カメラマン沢田教一が撃たれた日 [日記(2011)]

キャパ.jpg 安全への逃避.jpg
 「人民戦線兵士の死」         「安全への逃避」1966年ピューリッツァー賞
 
 左はロバート・キャパがスペイン内戦で撮った「人民戦線兵士の死」、右は沢田教一の「安全への逃避」(ベトナム戦争)。「安全への逃避」は1966年度のピューリッツァー賞受賞に輝いています。2枚とも有名な写真ですから、何処かで見たことがあると思います。
 キャパに憧れてUPIカメラマンとなり、1965年から1970年の間にベトナム戦争を撮り続け、カンボジアで狙撃されて34歳で亡くなった沢田教一のそれこそ「駆け抜けた」一生を描いています。

 高校時代は写真部に在籍、大学受験を失敗して米軍三沢基地内の写真店で働いて英語を研き人脈を築きます。写真の技術と基地の人脈を武器に、カメラマンとしてUPIに潜り込みます。この辺りは挫折を経験した青年の野心とも矜持とも理解できますが、津軽訛りで口の重い青年が、英語であれば口が開け積極的に人間関係を築いていった風景を思い浮かべてしまいます。
報道カメラマンとしてスタートした沢田は、

ベトナムのキャパになりたい
“決定的瞬間”を撮るためには、自分を決定的場面に置かないと撮れない

と、ロバート・キャパ、アンリ・カルティエ=ブレッソンを目指して戦場の最深部へと自らを追い立てます。そしてベトナムに入ってわずか6ヶ月後に撮った「安全への逃避」がピューリッツァー賞を射止めます。

沢田の事蹟とベトナム戦争を書き抜いてみます。

1961年:7月上京、12月UPIに入社
1965年:アメリカ軍による北爆開始(2月7日)、アメリカ海兵隊がダナンに上陸(3月)、韓国軍派遣(10月)
2月、休暇をとってベトナム戦争へ
7月、UPIのサイゴン支局特派員として赴任
第9回ハーグ世界報道写真グランプリ
第23回USカメラ賞
1966年:タイビン村虐殺事件(2月)、北ベトナムに対するB-52による初空襲(4月)、ビンホア虐殺(en)(12月)、初のクリスマス休戦(12月)
ピュリッツァー賞
アメリカ海外記者クラブ賞
第24回USカメラ賞
第10回ハーグ世界報道写真1位
1967年:南ベトナム解放民族戦線がダナン基地を攻撃(7月)、グエン・バン・チューが南ベトナム大統領に就任(9月)
アメリカ海外記者クラブ賞
1968年:テト攻勢開始(1月)、フォンニィ・フォンニャットの虐殺(2月)、ソンミ村虐殺事件(3月)、パリ和平交渉開始(5月)

月、UPIホンコン支局写真部長に異動
第26回USカメラ賞

1969年:北ベトナムが南ベトナム臨時革命政府の樹立を発表(6月)、ホー・チ・ミン死去(9月)
1970年:リチャード・ニクソン大統領就任(1月)、南ベトナム軍とアメリカ軍がカンボジアに侵攻(4月)、カンボジア内戦勃発
    1月、再びサイゴン特派員に異動0月28日、取材途上、カンボジアの国道2号線上で狙撃され、殉職
1971年 
    ロバート・キャパ賞 講談社文化賞 アサヒカメラ賞

 沢田がベトナムに滞在したのは1965年2月~1968年8月ですから、ベトナム戦争が一番激しかった時期と重なっています。報道カメラマンにとって戦場とは麻薬のようなもので、一度経験すると身を焦がす衝動によってそこに舞い戻る他はない場所のようです。1970年、一旦は離れた戦場に舞い戻り、沢田教一は命を落とします。

 「“決定的瞬間”を撮るためには、自分を決定的場面に置かないと撮れない」
 
沢田教一と本書の核心は、この一言ではないかと思います。写真が価値を持つのも、これではないでしょうか。従軍記者は現場に行かなくとも、司令部のブリーフィングで記事を書くことができますが、従軍カメラマンは銃弾が飛び交う戦場に行かなければ「人民戦線兵士の死」を撮ることは出来ないということです。ファインダーのこちら側の問題です。
 
 ピューリッツァー賞を獲ったベトナム戦争の写真(ニュース速報写真部門)はこの3枚です

1966年:沢田教一(UPI通信)、「安全への逃避」
1969年:エドワード・T・アダムス(AP通信)、「サイゴンでの処刑」
1973年:フィン・コン・ウト (AP通信)、「戦争の恐怖」

この3枚をながめると、世界がベトナム戦争をどのように見てきたかその変化が分かるような気がします。
 
ベトナム戦争.jpg 戦争の恐怖.jpg
 「サイゴンでの処刑」               「戦争の恐怖」

タグ:読書
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