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宮尾登美子 岩伍覚え書 [日記(2012)]

岩伍覚え書 (集英社文庫 み 9-1)
 「櫂 →春灯→朱夏」から続く四部作最終巻です。「寒椿」を読んで久々の宮尾登美子の世界が快かったので、四部作最終巻「岩伍覚え書き」を読んでみました。
 宮尾登美子の「土佐もの」の主人公はいずれも女性ですが、その女性の背後に影のように付きまとう人物、影の主人公こそ「女衒・岩伍」です。

 作家は「岩伍覚え書」に至る3冊の小説で、岩伍にを好意をもって描いているわけではなく、どちらかというとその職業「芸妓娼妓紹介業」とそれを生業とする岩伍を嫌っているように思われます。嫌っているようですが、「寒椿」の「久千代の民江」で描かれた民江の父親対する情愛、わざわざ岩伍に一巻をさいた所などを見ると、岩伍に対する並々ならぬ思い入れも感じられます。例えば映画化された宮尾作品のキャスティングを見ると、岩伍というキャラクターが如何に期待されているかがよく分かります。監督の五社英雄、降旗康男もどっちかと言うとそっち系で、山下耕作にいたっては「緋牡丹博徒」などその道の巨匠、製作も東映です(笑。

鬼龍院花子の生涯(1982) ⇒鬼龍院政五郎(興行師)・・・仲代達矢、監督:五社英雄
陽暉楼(1983) ⇒太田勝造(芸妓娼妓紹介業)・・・緒形拳、監督:五社英雄
櫂(1985) ⇒富田岩伍(芸妓娼妓紹介業)・・・ 緒形拳、監督:五社英雄
夜汽車(1987) ⇒田村征彦(博徒)・・・萩原健一、監督:山下耕作
寒椿(1992) ⇒富田岩伍(芸妓娼妓紹介業)・・・ 西田敏行、監督:降旗康男
DSC_3726.jpg ← 「夜汽車」(十朱幸代、萩原健一
 その岩伍です。
 
 私、若い衆時代は人から六方者と云われ、日頃年頃賭場に漬かっていて喧嘩出入りにはいつも一役買っておりました恥ずかしい前世を持っております。

強面の「寅さん」という気がしないでもありません。この博徒・岩伍が「陽暉楼」の楼主の助けで女衒となり、

 不肖富田岩伍、今では博徒の仲間うちではなく世の娘たちの善行の介添たらんと志す紹介人であります

明治15年生まれ、高知で40年紹介業を生業となし、齢60にして、思い出に残る事件を自ら語る構成をとっています。

 旧制中学の教師が、借金返済のために千円で妻を芸妓に売る「三日月次郎一件について」 。中学校の教師の給料が30円という時代の千円です。高等小学校しか出ていない自称無学な岩伍は、社会的地位のある教師が妻を売ると云う事はよほどの事情があるのだろうとう、ひと肌脱ぎます。ところが中学教師夫婦は行方をくらませ、岩伍は千円の借財を背負う羽目となります。後、教師の妻の兄・博徒「三日月次郎」と大立ち回りを演じ、岩伍は後に「土佐一番の度胸者」と評判を取る顛末が描かれます。「三日月次郎一件について」で、岩伍が紹介業を営むようになった経緯や、紹介業のあらましが描かれます。

 岩伍手ずから育てた紹介業見習いが、己の知恵と欲望に身を滅ぼす「すぼ抜きについて」。日本の大陸進出にともない、岩伍の家業も大陸進出を果たし業容を広げます。国内とは異なる満州の花柳界、接客業の実態が興味深く描かれた「満州往来について」。妓楼に付きものの博徒との諍いとその顛末を描いた「博徒あしらいについて」。

 いずれも現在では窺い知れない妓楼、娼楼とその世界に生きる女性、芸妓娼妓紹介業と富田岩伍を描いて興味がつきません。

 宮尾登美子の「土佐もの」は、富田家の喜和、綾子、高知の花柳界に身を沈めた芸娼妓が主人公ですが、「岩伍覚え書」では一転、どちらかと云うと女達の影の存在であった女衒・岩伍と彼を取り巻く男達が表舞台に躍り出ます。男達が舞台で大見得を切るわけですが、その舞台を支えているのはやはり女達で、女達の物語と云うこともできます。 

タグ:読書
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