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映画 ヒッチコック(2012米) [日記(2014)]

ヒッチコック [DVD]
 ヒッチコックが『サイコ』を作る楽屋話です。ヒッチコックにアンソニー・ホプキンス、その妻アルマにヘレン・ミレンという超ベテランを起用したヒッチコックの舞台裏と言ったほうがいいかもしれません。『サイコ』の舞台裏を見ることができるかと期待したのですが、ジャネット・リー役のスカーレット・ヨハンソンはちょこまか登場するだけ、アンソニー・パーキンス役のジェームズ・ダーシーはいた?という程度です。

 『サイコ』、『鳥』に顕著にあらわれていますが、ヒッチコックの映画は「マザーコンプレックス」がひとつのテーマとなっていると思います。『ヒッチコック』では、コンプレックスの対象が母親に向けられず妻のアルマに向いています。従って、この映画はヒッチコックとアルマの物語です。
 この映画を見るまで、アルマ・レヴィル知らなかったのですが、『断崖』『疑惑の影』『舞台恐怖症』 をはじめヒッチコックの脚本を手がけた脚本家、編集者です。彼の作品の多くが、妻との共同作業だったようです。

 という話で映画は始まります。ヒッチコックはロバート・ブロックの『サイコ』の映画化を企画しますが、猟奇殺人犯をモデルとした原作の映画化に、大手映画会社は乗ってきません。ヒッチコックといえば巨匠ですから、作りたい映画を自由に作れるものだと思っていました。そうではないのですね。ヒッチコックは、自宅を抵当に借金して制作にのりだします。
 彼が『サイコ』にこだわった理由は、原作のモデルがエド・ゲインだったことです。wikipediaを見ると、吐き気がしそうなこの猟奇殺人者に、ヒッチコックはどうやら自己投影している節があります。サスペンス映画の監督ですから、猟奇的な性癖は幾分あるでしょうが、ヒッチコックが反応したのはエド・ゲインの犯罪の奥にあるマザーコンプレックです。ヒッチコックは、エド・ゲインの幻覚まで見る始末ですから、どうも他人と思えなかったのですね(笑。

 アルマがどういう登場の仕方をするかというと、ヒッチコックの映画を影で支え、仲良くカメラのフラッシュを浴びる夫人であるとともに、金髪フェチでチョコレートやフォアグラに目がなくメタボのヒッチコックを持て余し気味の妻いう役回りです。ガーデニングと水泳が趣味のアルマは、『サイコ』が失敗するとプールのある自宅を手放すことになり、悩みの種がまたひとつ増えて鬱々たる気分。そんな彼女に脚本の仕事が舞い込み、夫以外との仕事ですから、生き生きしだします。これは分かりますね。私生活では妻、外に出ては仕事のパートナーと一日中ヒッチコックと付き合うというのも大変なことだと思います。

 このアルマの変化にヒッチコックは気付き、嫉妬の炎を燃やすわけです。どこがマザコン? →エド・ゲインの妄想、とヒッチコックが『サイコ』についてマザコンを語る以外には、それらしい話はありません。ヒッチコックはアルマの浮気を疑っています。そんな折、彼が倒れて撮影は遅れます。遅れるだけ経費が嵩みますから、自宅を手放すのはイヤダ!とアルマが乗り出します。
 そして映画が完成しますが、試写の評判はさっぱりよくありません。やはり自宅を手放すのか? →イヤダ!とまたもアルマが編集に乗り出します。で、劇場公開は大成功をおさめ、かくして『サイコ』はヒッチコックの最高傑作となったわけです。内助の功を描いた映画ですか?これは。

 『サイコ』でには、アンソニー・パーキンスが、シャワーを浴びるジャネット・リーをナイフで殺すシーンが有名です。劇場公開の初日、このシーンで観客の上げる悲鳴を聞いてヒッチコックは『サイコ』の成功を確信します。言わせてもらえば、本当に怖いのはこの殺人シーンではなく、鳥の剥製制作が趣味という主人公が、死んだ筈の母親と邸の二階で暮らしていることです。観客は声まで聞かされますから、母親はゾンビとなって生きているのか?(そんなわけはない)というシーンだと思うのですが、どんなものでしょう。ヒッチコックが描きたかったのは、母親の死を受け入れられず、生きているかのように振る舞う主人公のマザーコンプレックだと思います。この深層心理が現実に顔を出すと、エド・ゲインのような犯罪を生み出すという恐怖です。

 ということで、『ヒッチコック』はヒッチコックの心理に迫りえず、妻の浮気を疑う世の亭主のありきたりの嫉妬しか描いていません。夫の嫉妬をものともせず、プールと邸を守るために頑張ったヒッチコック夫人の勝ち、という映画です。
 でお薦めかというと、ヒッチコック好きには、これはこれで楽しめる映画です。

【ヒッチコックのブロンド】
レベッカ(1940)・・・ジョーン・フォンテイン
逃走迷路(1942)・・・プリシラ・レイン
疑惑の影(1943)・・・テレサ・ライト
裏窓(1954)・・・グレース・ケリー
知りすぎていた男(1956)・・・ドリス・デイ
めまい(1958)・・・キム・ノヴァク
北北西に進路を取れ(1959)・・・エヴァ・マリー・セイント
サイコ(1960)・・・ジャネット・リー
(1963)・・・ティッピ・ヘドレン
マーニー(1964)・・・ティッピー・ヘドレン
引き裂かれたカーテン(1966)・・・ジュリー・アンドリュース
フレンジー(1972)・・・バリー・フォスター

監督:サーシャ・ガヴァシ
出演:アンソニー・ホプキンス ヘレン・ミレン スカーレット・ヨハンソン ジェシカ・ビール

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