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ドストエフスキー 悪霊 第3部 (1) [日記(2014)]

悪霊 3 (光文社古典新訳文庫)
【放火と殺人】
 第3部は、県知事夫人ユーリヤが主催するパーティー「祭り」で幕が上がります。 私の場合、悪霊をスタヴローギン、ピョートル寄りで読んでいるので、彼らが登場しない章はどうも面白くありません。この「祭り」にも作家が仕掛けたf暗示や伏線が沢山あるらしいのですが、よく分かりません。
 「祭り」で人目を逸らしている隙を狙ったように、川向うの町に火の手が上がります。火事は、シュピグリーン工場の労働者による放火で、火事のドサクサに紛れてレビャートキンと妹のマリア(スタヴローギンのの妻)が殺され金を奪われるという事件が起こります。第2部でピョートルがスタヴローギンに持ちかけた通りの殺人が起こります。ピョートルがレビャートキンに大金を渡し、その金を目的にフェージカが起こした殺人で、放火もピョートルの教唆です。

ぼくは、火事をいざというときのために、われわれ全員が蜂起するかけがえのない瞬間のために大事にとっておいたんです、それが……あの連中、急に思いつきやがって、独断で、指令も待たずに、しかもよりによって、身を潜めて口に手をあて、息をひそめていなきゃならないときに! いや、あれはもう、独断専行もいいところだ!……

とピョートルは言っていますが、何処まで信用していいものやら。この後、町にはこんな噂が流れます。

スタヴローギンは、妻を焼き殺す理由があって、そのために町も焼きはらったとか

 『悪霊』はスタヴローギンを主人公とした物語で、物語の悲劇はすべてスタヴローギンに収斂される筈なのですが、第3部まで読んできても、スタヴローギンの魔性というものが何処にあるのかさっぱり理解できません。ビーズ玉をぶちまけたようなと表現されるその饒舌と、目的のためには人を道具として利用するピョートルの不遜には、いくぶん滑稽感がありますが、魔性を感じます。
 スタヴローギンは、情欲に任せて?リザヴェータやダーリヤと関係を結び、マトリョーシャを陵辱して自殺に追い遣り、挙句の果てにマリアと結婚したという好色漢ですが、どうも影が薄いような気がします。だいたい、スタヴローギンは寡黙で、自分の思想を語らない。解説を読むと、ピョートルの陰謀の後ろにはスタヴローギンの意図が働き、キリーロフの人神論、シャートフの汎スラブ主義もスタヴローギンが吹き込んだということらしいです。亀山センセイによると、

悪霊はただ一人、それはほかでもない、ニコライ・スタヴローギンである。少し逆説的な言い方になるが、スタヴローギンは、そのかぎりない存在の希薄さにおいて、悪霊としての、霊としての存在感にまで到達している。(第2部解説)

この影の薄さこそ、スタヴローギンが悪霊である「霊性」だというのですが(幽霊だから影が薄い)、どんなもんでしょう。

【シャートフ殺し】
 シャートフは、ピョートルが戯画化されて描かれるのに比べ、作家が愛情を注いだ登場人物と思われます。シャートフは、ピョートルと5人組の欺瞞を見通し、スタヴローギンのシニシズムを断罪します。またピュートルが出した踏み絵、政治的殺人が計画されていることを知った場合当局に通報するか、という踏み絵を踏まなかった人間です。そのバックボーンには、ロシア(スラブ)民族の中から労働によって神を手に入れた新しい世代が生まれてきている、革命は、観念をもてあそぶピョートルやスタヴローギンではなくその新しい世代が主役になるべきだと考えています。

 『悪霊』は、ネチャーエフ事件(内ゲバ事件)に触発され、上から目線の革命を戯画化してこき下ろす意図で書かれた(パンフレット)小説です。その象徴であるピョートルと対置されたシャートフは、作家の分身なのでしょう。で、第3部でシャートフは何を語るのか。
 シャートフは語りませんが、以外な展開をみせます。3年前に別れたシャートフの妻マリヤ・シャートワが現れます。妊っておりしかも臨月。3年前に分かれているのですから、シャートフの子供ではありません。またまた、とんでもない言葉がマリヤの口から飛び出します。

ニコライ・スタヴローギンは人でなしよ!

これ、お腹の子供の父親はスタヴローギンということになるのでしょう。シャートフの妹ダーリヤもスタヴローギンとの関係が匂わされていますから、シャートフの妻と妹がふたりながらスタヴローギンの毒牙にかかったということです。すべてはスイス時代に起こった出来事のようで、マリアと別れたのもスタヴローギンが原因なのでしょう。スタヴローギンと、スタヴローギン家の元農奴の息子シャートフという関係がふたりにどう影響を及ぼしているのか。

 シャートフは、スタヴローギンの子供を宿して帰ってきたマリヤを暖かく迎えます。5人組のひとりヴィルギンスキーの妻アリーナが腕利きの産婆であり、シャートフはアリーナを呼び、キリーロフから借金して出産の準備を始めます。レビャートキンと妹のマリア、リザヴェータ、フェージカ(マトリョーシャも)と死者続出のなかで、赤ん坊の誕生とい希望の持てる展開です。しかも、不義の子が歓迎されて生まれてくるのですから。

 これから自分たちが「ふたたび、永遠に」はじめる生活のことを話した。神の存在や、すべての人がすばらしい、といった話を聞かせた……歓喜のあまり、赤ん坊を見ようと、ふたたび抱きあげてみるのだった。 「マリー」両腕に赤ん坊を抱きながらシャートフは叫んだ。「これでもうすべてが終わったのさ、古いうわごとも、恥辱も、死肉のような生活も、ね! これから一生懸命働いて、三人して新しい道に向かおう

 希望の光りが射した時、シャートフはピョートルに裏切り者として殺されます。5人組がシャートフを抑えこみ、ピョートルの拳銃によって射殺されます。ピョートルは、動揺する5人組に言います、

みなさんが歩み出すべき一歩は、さしあたりすべてを破壊することにあります。国家も、国家の精神性もです。生きのこるのは、みずからが権力を奪取することをあらかじめ予定された、われわれだけなのです。賢い人間たちをひきいれ、愚かな人間どもの背にまたがって出発するのです。みなさんは、それにたいして二の足を踏んではいけない。
・・・他にも無数のシャートフが立ちはだかっています。・・・われわれは、時代の舵を切るために組織されているのです。

 ただ、スイス時代に、ピョートルとシャートフには確執があったようで、キリーロフに言わせるとその恨みで殺したということです。
 さらにピョートルは、キリーロフをシャートフ殺人の犯人に仕立て上げ、自殺願望のあるキリーロフにシャートフを殺したという遺書を書かせ、自殺に追い込もうとします。

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