kindleで読書 丸谷才一 輝く日の宮 (1) [日記(2014)]
「源氏」つながりです。『源氏物語』には、「桐壷」と「箒木」の間には「輝く日の宮」という欠落した帖があるという説があります。この帖には、源氏が藤壺、六条御息所と初めて関係を持ち、朝顔との馴れ初めが描かれていると言われています。この失われた帖の謎に、文芸評論家で小説家の丸谷才一が挑んだ小説です。
冒頭からコケます。
紺のジーパンに黄色いセーター、白いスニーカーの十五の娘は、右手に華奢なバッグを下げて黄昏の間近い街へ、千鳥ケ淵の染井吉野の花びらが微風に舞ひ、風に運ばれた揚句、天からしきりに零れつゞける路へと歩み入る。
序章みたいなもので、ヒロインが中学生の頃に書いた小説からスタートします。blogで雑駁な文章を書き散らしている身には、思わず背筋を正すような文章です(笑。この調子で最期まで読まされるのかと、ため息が出ましたが、そんなことは無かったです(但し旧仮名遣い)。芭蕉の「奥の細道」があったり泉鏡花が出てきたりして、なかなか本論にたどり着きませんが、日本文学史の勉強みたいなものです。この小説は、源氏物語の失われた帖「輝く日の宮」と、そのその存在と消滅の謎を説くヒロン杉安佐子の恋愛の入れ子構造になっています。
【紫上系(a系)と玉鬘系(b系)】
源氏物語には紫上系と玉鬘系とがあるのですが、紫式部はまず「紫上系」を書いて後に「玉鬘系」を書き足して現在の54帖が出来上がった。紫上系の第2帖「輝く日の宮」は、藤原道長によって消された(抹殺された)。というのが、本書の基本的なテーマです。
作者は文芸評論家でもあるわけですから、評論として著せばよさそうなものですが、女子大の国文学教師・杉安佐子が語る小説の形をとっています。これは、1000年前の出来事の、証拠も無い憶測に過ぎないから小説にしたということなのでしょう。
【「輝く日の宮」は存在したのか?】
1)藤壺と源氏が最初に関係を持った記述が無い(2回目はある)、六条御息所、朝顔の君との馴れ初めが書かれず、突然に?登場し、前後も脈絡が希薄である。「輝く日の宮」には、この3人との恋愛が描かれていた筈である。→一般に言われている存在説です。
2)「雨の夜の品定め」で、光源氏はほとんど発言しない。「品定め」では、上流の女性は面白く無い、中流がいいというのが結論です。この時、源氏は、藤壺(天皇の寵姫、中宮)、六条御息所(東宮后、中宮)という上流の女性と既に関係を持っている事実が「輝く日の宮」で明らかにされているので、あえて発言しなかった。→少しこじつけ。
という2点を杉安佐子(丸谷才一)は「輝く日の宮」存在の論拠にします。では、これが何故消えたのか?
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