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西木正明 ウェルカム トゥ パールハーバー( 上 ) [日記(2015)]

ウェルカム トゥ パールハーバー(上) (角川文庫)
 「リメンバ パールハーバー」ではなく、何故「ウェルカム トゥ パールハーバー」なのかを描いた歴史サスペンスです。「ようこそ真珠湾へ」、真珠湾はとは日本が奇襲攻撃(1941/12/8)をかけて対米戦の火蓋を切ったハワイ真珠湾です。本書は、この真珠湾奇襲に至る1941年の「日米交渉」の舞台裏を描いています。

 時の米大統領ルーズベルトは、真珠湾奇襲をあらかじめ知っていたと云う話は、真相は不明ながら有名な話です。本書は、知っていたどころか、真珠湾奇襲は米国によって仕掛けられた謀略( 真珠湾攻撃陰謀説 )であるというノンフィクション・ノベルです。と言っても、昨今流行の「右傾化」小説ではなく、史実の行間に作者独自の創造力駆使したサスペンス、情報(諜報)小説です。

 ルーズベルト、チャーチルは当然ですが、ワイズマン、ドラウト、岩畔豪雄、井川忠雄をはじめ、本書に登場する人物は実在の人物です。諜報の現場を描き、日米交渉の解説するために、ハルビン特務機関の江崎中尉と陸軍主計天城大佐を登場させます。ソ連の日本大使館で諜報にたずさわったふたりが、日米関係が風雲急を告げるなか企画院に集められ、NYに派遣されます。

 ふたりには、江崎の婚約者を天城が奪ったという過去があり、このわだかまりがスパイスとなっています。おまけにハニートラップの美女が登場し、ふたりは罠に嵌まったと見せかけて諜報戦に身をさらす辺りは、作者のサービスです。江崎と天城の身辺調査の報告書を読んだフーバー(FBI長官)は、彼らの仕事振り( 女遊び )にあいそうをを尽かしながら、相手の女性がソ連のハニートラップだと知って、調査の継続を指示するあたりは、笑ってしまいます。

 本書のネタは第二章で早くも明らかにされます。ルーズベルト大統領のアタッシェの弁護士ドノヴァン、これもチャーチルのアタッシェを担う前MI6アメリカ支部長で国際投資銀行共同経営者ワイズマン、MI6現アメリカ支部長 スティーブンスン、カソリック神父ドラウトの四人の会話です

当初の民間交渉で希望に満ちた条件(日米諒解案)を提示し、いったん政府間交渉(日米交渉)になったら、一転ハードル(交渉の条件)をあげ、日本側が受け入れ不可能な項目を追加して交渉する・・・

その交渉の行き着くところは決裂だな

決裂すれば日本はかならず武力行使に踏み切る。なぜなら彼らには、それ以外に選択肢がない。ドイツと同盟関係にある日本とアメリカが戦端を開けば、アメリカは否応なしにドイツと戦うことになる

あらかじめ決裂を前提とした交渉に日本を引きずり込む。おそろしいシナリオですな(p65)

このシナリオにルーズベルトが乗ります。民間交渉にドラウト神父を充て、元財務官僚で銀行員の井川忠雄を日本側窓口として、日本を戦争に引き釣りこむ謀略が着々と進行します。

 なぜこんな回りくどいシナリオを準備したのか?。ルーズベルトは、欧州の戦争には参戦しないと選挙で公約し、世論も戦争を望んでいません。 ルーズベルトは、ヒトラーのヨーロッパ征服を阻止し、枢軸国の世界制覇を阻止するためには、英露中への武器、資金援助だけではなく参戦が必要と考えています。日本が攻撃してくれば大手を振って世界大戦に突入できると云うわけです(あるいは、軍産複合体がバックにあったのかも知れません)。

 もうひとり重要な人物が登場します。日本の外交官にしてコミンテルンのメンバーの二重スパイ、エコノミスト。この人物はコードネームで登場し、本名が明かされません。エコノミストは、独ソ戦が始まっても日本はソ連を攻めないこと、また「帝国国策遂行要領」の内容と日米交渉の期限を10月上旬とし対米開戦の準備が整った情報をスターリンにもたらし、独ソ戦勝利に大きく貢献します。
 エコノミストは、2005年、共同通信のスクープとして明らかになった実在の人物で(三宅正樹『スターリンの対日情報工作』)、作者は、実名を書きませんが、駐ソ大使館参事官、スイス公使イタリア大使、内閣情報局総裁を歴任した天羽英二として小説に登場させます。

 やがてハル・ノート→「帝国国策遂行要領」→真珠湾へとなだれ込みます。

タグ:読書 昭和史
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