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映画 それから(1985日) [日記(2016)]

それから [DVD]
 夏目漱石の小説がどれくらい映画化されているかというと
 
虞美人草(1935、1941)、坊っちゃん(1953、1958、1966、1977)、こころ(1955、1973、蒼箏曲2012)、三四郎(1955)、吾輩は猫である(1975)、それから(1985)、夢十夜(2007)

 けっこうあるものです。比較的映画になりやすい『坊っちゃん』は4度、人気の『こころ』は3度。漱石の小説を映画にして面白いのかどうか興味があったので、見てみました。主人公の永井代助を松田優作、ヒロインの三千代を藤谷美和子、監督は森田芳光。脇を小林薫(平岡)、 笠智衆(代助の父)、中村嘉葎雄(代助の兄)、草笛光子(兄嫁)が固めます。

 こちらによると、1986年度の第31回キネマ旬報賞日本映画監督賞・ 第28回ブルーリボン賞監督賞・第10回報知映画賞監督賞・第9回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞、最優秀助演男優賞(小林薫)、最優秀録音賞(橋本文雄)を受賞しています。
 明治42年の小説を昭和60年の映画にどの様に翻案するかです。
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 一言で云うなら『それから』は「姦通小説」です。「姦通」とは所謂「不倫」のことで、旧刑法では「有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ」とあり、この小説が朝日新聞に連載された明治42年、不倫は犯罪だったわけです。当時の読者は、この「姦通罪」を意識の端に置いて『それから』を読んでいたことになります。

 映画は原作に忠実です。定職も持たずブラブラしている金持ちの次男・代助と、友人・平岡の妻・三千代の不倫の映画です。かつて代助、平岡、三千代は、心理的三角関係にあり、大助は三千代を平岡に譲ったという過去があります。4年後、夫婦関係が破綻した平岡と三千代が代助の前に現れ、代助は平岡から三千代を奪ってかつての愛を取り戻すという”メロドラマ”です。

 おおまかに、3つの話から成り立っています。

 帝国大学の学生の代助と平岡と三千代の三角関係です。代助と三千代はお互いに惹かれ合っていますが、平岡が三千代への思慕を代助に告白したため、代助は三千代を平岡に譲ります。代助も平岡も、世の荒波を経験しない学生です。この恋する女性を親友に譲り取り戻すというテーマは、後に『こころ』に発展します。
 ふたりは大学を卒業し、平岡は銀行に勤め三千代と結婚し、代助は職に就かず親のスネをかじり社会に出ず学生時代を続ける”高等遊民”となります。父親が実業界の実力者であり、長兄が家を継いでいるからできるわけです。代助なりの理屈はあるようですが、世間に出ることを拒んだことになります。

 一方平岡は、部下の不始末で銀行を辞め借財を作り、結婚が破綻した姿で代助の前に現れます。平岡は代助に職の斡旋を頼み、代助は平岡の苦境を救うというよりも三千代のために、借財の肩代わりしようとします。代助は兄に頼りますが、就職の斡旋も借金も思うようにゆかず、逆に父と兄は代助に政略結婚を迫ります。拒絶した世間という現実が代助に立ちはだかります。

 物語はここから核心に入ります。三千代が平岡のもとで不幸な生活を送っていることを目の当たりにした代助は、三千代を救おうとします。時間を学生時代に巻き戻し、愛した三千代を平岡から奪おうというわけです。この時間の巻き戻しに漱石が使ったものが「銀杏返し」と「百合」。三千代は髪を銀杏返しに結い、百合の花束を持って代助を訪ねます。「銀杏返し」は、代助、平岡と三千代の兄が帝大生であった頃の髪型であり、「百合」は代助と三千代の思い出の花。このふたつによって4年の歳月が巻き戻され、代助は「世間」へと飛び出すことになります。待っているのは「姦通罪」と父親からの経済的自立です。小説のラストで代助は

門野さん、僕はちょっと職業を探してくる

と書生に言い残して炎天下の街に飛び出してゆきます。このシーンは映画にはありません。代助と三千代は「それから」どうなったのか?。

 映画は代助と三千代のメロドラマに力が入っていますが、『それから』のキーワードは、姦通と高等遊民と銀杏返しと百合の花です。

監督:森田芳光
原作:夏目漱石
出演:松田優作 藤谷美和子 小林薫

タグ:夏目漱石
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