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井上章一 大阪的 「おもろいおばはん」はこうしてつくられた [日記(2019)]

大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)

 タイトルのキャプションは「『おもろいおばはん』はこうしてつくられた」ですが、中身は「おもろいおばはん」のバックグラウンドと知られざる大阪で、やや看板に偽りありです。井上章一には『京都ぎらい』という京都礼賛の本がありますが、本書は、「アンチ東京」という形の大阪礼賛です。

 弥生時代→古墳時代→飛鳥時代の名称の話です。弥生は土器の発見された東京の地名、飛鳥も地名ですが、古墳が最も多く作られた河内の地名を採って何故「河内時代」と呼ばないのか?、と著者は文句を付けます。安土・桃山時代も同様で、秀吉が伏見城を築いた地が「桃山」と呼ばれるのは後世のこと。秀吉が拠点としたのは大阪(大坂)城ですから、「安土・大阪時代」と呼ぶべきだ。これらは東京を中心とする史学会の陰謀ではなかろうかと。中大兄皇子と藤原鎌足が蘇我入鹿を殺したクーデターも、「大化の改新」の号令を出したのは「難波の宮」であり「難波の改新」と言ってもおかしくはない。何故か「大坂」という言葉が不当に差別されている。ごもっともですが、言いがかり的なところもありそうです。(第八章 歴史のなかの大阪像)

 「ホルモン焼き」という言葉が辞書に収録されたのは、『広辞苑』では第3版(1983)から、『日本語大辞典』では1995年で、「ホルモン焼き」はそれまで日本語とは認められなかったそうです(笑。

 例えば「第一章 大阪人は面白い?」の小見出しを列挙すると、
 あんたも大阪のおんなやろ
 太鼓持ちとちゃうぞ俺は
 慎み深い上方の女たち
 おばはんたちの その昔
 大阪人
にもユーモアはある、
 大阪のおばちゃん」は ここからはじまった
 「プロポーズ大作戦」の舞台裏には
 予算の少ない準キー局
 テレビの力 
だいたい分かりますね。

 「大阪のオバチャン」で思い出すのが、映画『阪急電車 片道15分の奇跡』に登場するオバチャン。見ている方が恥ずかしいくらいのオバチャンが登場します。もっとも、 宮本信子演じる慎み深い上方の女たちも登場しますが。このオバチャン像は、(阪神タイガースの人気同様に)テレビが作ったというのが第一章のオチです。大阪のイメージである「金儲けとド根性」は、花登筺の脚本世界であり、大阪人の特徴とされる「がめつい」という言葉は、菊田一夫の創作で関西弁には存在しないそうです。花登筺は滋賀県、菊田一夫は横浜出身、生粋の大阪人ではありません。

 ちょっと気になるのが、阪神間の山手、六甲、芦屋の兵庫県にあるもうひとつの大阪。著者によると、船場など大阪の中心から逃げ出した富裕層がこの地で築いたのが、谷崎潤一郎が『細雪』で描いた大阪。逃げ出せず大阪に留まった庶民と、周辺地域から流入した人が混然一体となったのが(吉本新喜劇が描くような)大阪。後者を悪く言う訳ではないのですが、京言葉の流れを汲む船場言葉と、河内弁、泉州弁では勝負になりません。谷崎潤一郎vs.吉本新喜劇みたいなものです(笑。

 この関連で面白いのが第四章「美しい人は阪急神戸線の沿線に」。ファッション雑誌の表紙を飾る読者モデル(女子大生)は、1位青学、2位立教、早稲田、慶応と続いて5位に神戸松蔭女学院、8位、9位に神戸女学院、甲南女子が続くらしいです(2007年ランキング)。甲南女子は前年まで首位で、大学のお達しでモデルになることを禁じられそれでも9位。著者によると、同校に美人が集うことは、関西でも伝説化されていた。「南女」の愛称とともに、しばしば噂の的となったものである。私も学生時代から、あこがれをいだいてきた、のだそうです(笑。

 第六章 「食いだおれ と言われても」は、ホルモン焼き、たこ焼き、お好み焼きは登場しますが、ツッコミが足りませんね。大坂の食は「粉もん」か!。ここは織田作之助を登場させ、『夫婦善哉』の高津の湯豆腐屋、出雲屋の「まむし」、どじょう汁と皮鯨汁(ころじる)や自由軒のカレーラースを登場させ、正統派「くいだおれ」を書いてほしかったところです。織田作については『わが町』が少しだけ出てきますが、『夫婦善哉』の蝶子、柳吉は「おもろいオバハン」とオッサンの格好のネタだったはずで、残念。

 本書は、2016~2018年、産経新聞に連載された「井上章一の大坂まみれ」を加筆修正したもだそうですが、京都人の井上センセイですから「まみれ」かたが少し足りなかったようです。

タグ:読書
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