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ユッシ・エーズラ・オールスン 特捜部Q―カルテ番号64- [日記(2019)]

特捜部Q―カルテ番号64―(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫) 特捜部Q-カルテ番号64-(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)  りずに『捜部Q4冊目。
 プロローグ、パーティでこの物語のヒロイン・ニーデはダークヒーロー、クアト・ヴァズと出逢い、夫の面前で過去を暴露されます。パーティの帰途交通事故(ニーデによる無理心中)を起こし、夫は死亡、ニーデは辛くも生き残ります。
 特捜部Qの秘書ローセが、1987年に起きたマッサージサロンの女経営者失踪事件(自殺として捜査打切)に疑問を抱き調べ始めます。この売春業者が失踪した週に、弁護士、漁師、看護師が行方不明となり、人口570万人のデンマークではこの失踪者数は異常。カールとアサドは、ローゼに引きずられるようにこの失踪事件の捜査を開始し、1987年の失踪事件と2010年のデンマークの政治結社明確なる一線が繋がります。

明確なる一線
 明確なる一線とは、ダークヒーロー、クアト・ヴァズが率いる「デンマーク人の血の純潔と倫理観を守ること」を使命とする政治結社。「血の純潔」とは、移民を排斥してケルマン人の純潔を保ち、社会的落伍者、遺伝病者や精神病者、移民を排除しようという主張を掲げ、次期国政選挙で国会に議員を送り込み政策の実現を狙う右翼政党です。

それは人々が、”ハイル!”と叫び、靴のかかとを打ち鳴らし、狂信に駆られて生きていた時代に掲げられた目標だった。支配的多数民族がそうでない民族より優れており、生きる価値のある人間と価値のない人間を選別する権利を主張できていた時代の目標だった。

とニーデに語らせていますから、ミステリの裏側には、世界的にはびこるポピュリズムへの批判が見て取れます。

 ヴァズは産婦人科の医師で、「密かなる闘争」という秘密の運動を組織し、生きるに値しない胎児を選別して非合法の堕胎を行い、本人の了解無しに強制不妊手術まで行っています。性的に堕落した母親から生まれる子供は堕落した人間に成長し社会を堕落させるから「浄化」が必要、これが「血の純潔」の正体です。

 デンマークは1960年代から労働力として移民を積極的に受け入れたため、移民は人口の9%に達し、福祉制度に頼って生活する移民が増えたため厳しい移民法を制定して流入を抑え、さらに隔離する政策まで実施しています。シリア移民アサドがデンマーク警察でカールの助手を勤めている設定が不思議だったのですが、こういう背景があったわけです。

優生法
 作者の「あとがき」によると、

本書に描かれている女子収容所は、1923年から1961年まで、大ベルト海峡に浮かぶスプロー島に実際に存在し、法律または当時の倫理観に反したか、あるいは”軽度知的障害”があることを理由に行為能力の制限を宣告された女性を収容していた。
 また、無数の女性が不妊手術の同意書にサインしなければ、施設すなわちこの島を出られなかった・・・不妊手術の実施に適用されていた民族衛生法や優生法といった法律は、1920年代から30年代には、欧米の三十ヵ国以上で公布されていた(日本でも、旧「優生保護法」(1948〜1996年)下での強制的な不妊手術があったことが話題になっています)。

 ニーデは知的障害があるとされ、ヴァズによって非合法の堕胎、性的暴行を受け、このスプロー島に送られ不妊手術を施された女性だったと云うわけです。
 前作とは異なり、『カルテ番号64』は社会派ミステリの趣ですが、松本清張のような叙情性はありません。

特捜部Q
 今回はローセが大活躍。アサドと資料を調べ独自に推理し事件を解明し、ローセという特異な女性の背景も徐々に明らかにされます。『Pからのメッセージ』で、ローセの双子の姉ユアサはローセ自身であり二重人格であることが明かされました。本書では、ローセはユアサ以外の人格にも変身する多重人格であることが明かされます。このことはローセ自身も理解しているようで、障害を持つ女性が矯正施設に隔離され不妊手術を受けることに、激しい怒りを表します。プロー島の懲罰房にあった爪痕にアサドが反応する辺りも、アサドの過去を垣間見る思いです。
 特捜部Qのそもそもの発端であった「ステープル釘打機事件」が又も蒸し返されます。カールが撃たれた家の地下からバラバラの遺体が発見され、遺体からはカールの指紋の付いた硬化が出、遺体の人物と映る写真まで発見されます。カールを陥れようとする存在匂わされ、事件の背後には何があるのか、乞うご期待と作者は次作へと引っ張って行きます。
 前作で活躍した元鑑識係ラウアスンも健在。「ステープル事件」で首から下が麻痺したハーディには回復の兆しが現れています。心理カウンセラーのモーナとの仲も順調で一見順風満帆で、カールは家出した妻ヴィガとも離婚きそう。カールは3度も殺されかけアサドは瀕死の重傷を負うという波乱万丈もあり、本作もなかなか楽しませてくれます。

特捜部Qシリーズ
檻の中の女
キジ殺し
Pからのメッセージ
・カルテ番号64・・・このページ
・知りすぎたマルコ
・吊された少女
・自撮りする女たち ・・・あと3作読めます!

タグ:読書
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