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映画 ブリムストーン(2016蘭英独仏米ベルギー、スエーデン) [日記(2019)]

ブリムストーン [DVD]  開拓時代のアメリカ、リズ(エリザベス)の苦難の物語。導入部でリズの現在が説明され、その過去、さらに少女時代に遡って描かれ、現在に戻ってカタストロフィに至るという4部構成です。

第1章 啓示:黙示録
 たぶん18世紀のアメリカ開拓地。助産婦のリズ(ダコタ・ファニング)は、教会で産気づいた妊婦の出産を介助し、子供を助けるか母親を助けるかの選択を迫られ、母親を助けます。リズは聞こえるが話せないという障害を持ち、会話は手話で幼い娘が通訳。教会は開拓地の核であり、牧師(ガイ・ピアース)は精神世界の王として開拓民を支配しています。牧師は、母親が生きるか子供が生きるかは神の意思であり、リズが決めることではないと言い放ちます。牧師とリズには因縁があるようで、ふたりの過去が謎1として提出されます。
 子供を失った父親はリズに復讐するため、家に火をつけリズの夫を撃ち殺し、リズと息子、娘の三人は夫の実家を目指すことになります。

第2章 脱出:出エジプト記
 荒野を彷徨う少女ジョアナ(エミリア・ジョーンズ)が登場し、中国人一家に拾われ娼館(売春宿)に売られます(リズは何処へ行った?)。この売春宿は西部劇でよくあるsaloonの雰囲気でよくできています。立派?な娼婦に成長したジョアナのエミリア・ジョーンズは、ダコタ・ファニングに交代、第1章のリズはこのジョアナだったことになります(やっと第1章と繋がった)。ジョアナは何故リズと名乗る様になったのか?謎2、第1章で喋れないジョアナはここでは普通に会話ができていますから、何故ジョアナは話せないという障害を負ったのか?謎3
 売春婦エリザベス(リズ)が登場します。キスを拒むエリザベスは、キスを強要した客の舌を噛み切り、罰として舌を切り取られます。エリザベスは、結婚仲介所を通じ妻を亡くした地方の寡夫と婚約します。
 娼館に牧師が登場し、娼婦全員を買い切るという豪遊となりジョアナを指名します(リズと牧師の因縁はここにあったのか!)。清貧のはずの牧師が何故は売春宿を借り切ることができたのか?謎4。牧師はジョアナを探していたと言い(つまりジョアナと牧師は以前からの知り合い、謎5)、単なる欲情にも宗教的理屈を付け、ジョアンナを救済すると彼女に迫るわけです。「天国からも拒まれている、共に地獄の業火で清められよう」などど勝手な言い分。牧師は、拒んだジョアンナをベルトで打ち据え、仲裁に入ったエリザベスを刺殺します。この時エリザベスは牧師の顔面を斬ります。第1章で登場した牧師も顔面に傷がありましたから、この時の傷だったわけです。ジョアナは牧師の喉を切り裂き、売春宿に火を放って逃げます。ジョアナは自ら舌を切ってエリザベスになりすまし、婚約者の寡夫の元を訪れます。謎2、謎3が解かれたことになります。

第3章 起源:創世記
 第3章は、時制でいうと第2章のさらに過去、ジョアナの少女時代です。この章で、牧師とジョアナは父娘の関係であることが明かされます(謎5の解)。ということは、第2章では父親が娘に迫ったことになります。開拓民にキリストの福音を説く牧師は、家庭にあっては家族に嫌われています(よくある話)。妻に迫って拒否され、罰を与えるとムチで打ち据え、口答え出来ないように妻に鉄のマスクを付けます。女性蔑視というより、これはもう歪んだ支配と情欲の世界です。妻に拒まれると、パウロがナントカ言っていると聖書の勝手な解釈で、牧師の欲望は何と娘に向かいます。この牧師の説くキリスト教の胡散臭さは極めつけ。ジョアナの自室の壁にボッシュ風の絵(快楽の園)が掛けられていますが、これも宗教(教会)と快楽(現世利益)の表裏を現したものでしょう。ボッシュもこの映画の監督もともにオランダ出身で、牧師一家はオランダ移民。関連があるのか無いのか?。

 ちなみにこの妻を演じるのが、『ゲーム・オブ・スローンズ』の赤の魔女カリス・ファン・ハウテン。冒頭で金鉱掘りの荒くれ者が仲間割れを起こすシーンが登場しますが、男の一人も『ゲーム・オブ・スローンズ』のキット・ハリントン(ジョン・スノウ役)。この男はジョアナに豚小屋に匿われ、牧師の妻子虐待の観察者、牧師とキリスト教の断罪者となります。右の頬を打たれたら左の頬を出せ、という聖書の言葉は支配被支配の関係なんだ、お前は支配されたいのかとジョアナを励ましますが、中途半端なこの男は、ジョアナを助けようとして牧師に殺され、牧師は男から奪った砂金で娼館で豪遊します(謎4の解)。
 この映画にはキリスト教への呪詛が満ち、それを一身に背負うのが牧師です。ジョアナは牧師の毒牙にかかり開拓地から逃亡し、第2章の冒頭に繋がります。

第4章 報復:審判
 第1章の続きに戻ります。牧師は、ジョアナ=リズを追い詰めジョアナの義父を殺し、ジョアナの娘=孫を鞭打ち、結局ジョアナに焼き殺されます。これで、抑圧され虐待された18世紀の開拓地の娘は開放されたのかというと、さらなる災難に見舞われます。ジョアナが生き延びたのかどうかは?。

 牧師、教会、宗教の欺瞞、男性優位の世界で生きねばならなかった女性の苦難の物語りということなんでしょう。第1章、第2章で繰り返される牧師の言葉、「偽に預言者を警戒せよ 羊の皮をまとい現れるが その内側は強欲なオオカミだ」これに尽きます。牧師には名前が与えられていません、アノニマスです。
 アメリカの開拓時代+教会というと、セイラム魔女裁判を扱った『クルーシブル』を連想します。中世と近代が混沌となったこの時代は魅力的、ホラーではありませんが似ていなくもないです。

監督・脚本:マルティン・コールホーベン
出演:ダコタ・ファニング、ガイ・ピアース、エミリア・ジョーンズ、カリス・ファン・ハウテン、キット・ハリントン

タグ:映画
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