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映画 ルキノ・ヴィスコンティ 郵便配達は二度ベルを鳴らす (1942伊) [日記(2019)]

郵便配達は二度ベルを鳴らす デジタル修復版 [Blu-ray]  原題はOssessione, 妄執。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』は、1939(仏),1942(伊),1946(米),1981年(米)と4度映画化されています。1946年の米映画は見たので、今回は1942年のルキノ・ヴィスコンティのイタリア版です。ヴィスコンティは、『若者のすべて』『山猫』『地獄に堕ちた勇者ども』などで有名ないわゆる巨匠。原作は(読んでませんが)、人妻とその恋人が共謀して夫を殺し財産を手中にするクライム・ノベル。この何処にでも転がっていそうな物語を後に巨匠と呼ばれるヴィスコンティが描けばどうなるのか?。処女作ですから、この不倫と殺人の物語に強く魅かれたことになります。
ジーノとジョヴァンナ          謎の少女
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 ヒッチハイクで旅する流れ者のジーノ(マッシモ・ジロッティ)は、トラックの立ち寄った食堂で、店主の妻ジョヴァンナ(クララ・カラマイ)と出会います。歳の離れた夫ブラガーナに不満を抱くジョヴァンナは、若いジーノに惹かれ、ふたりはたちまち不倫関係に堕ちるという、通俗小説を地で行くようなスタート。
 ジョヴァンナは、生きてゆくためには身体で稼ぐしかない、歳が離れていようとも夫と結婚する他はなかったと告白しています。下卑た夫との生活に不満を募らせ、そんな折りに現れた若いジーノに夢中になります。ジーノもまたジョアンアと別れがたく、主人の壊れた車を修理したことで店に居つくことになります。季節は夏、耐えがたい夜の暑さと苛立ちのなかで、夫婦が諍い、ジョアンナとジーノの官能が弾けます。アメリカ版には無い息詰まるシーンです。ブロンドのラナ・ターナーもコケティッシュでしたが、クララ・カラマイの扇情的な色気の方が一枚上。陽気で太っちょ、妻の浮気を微塵も疑わず釣りにしか関心のない店の主人ブラガーナも、さもありなんという存在。ジーノは人妻がよろめきそうな逞しいイケメン。ジョアンナの誘惑に乗り、その家に居座る図太さはあるものの、ジョアンナに惚れてしまうという純情さもあり、おまけに束縛を嫌う放浪癖あり。ヴィスコンティだと言われると、人物造形が一味違って見えます(笑。

 1946年のアメリカ版は、人妻と恋人が共謀して夫を殺すというサスペンスですが、この通俗小説を下敷きにルキノ・ヴィスコンティが描いたものは、男女の官能の下に隠された、女のしたたかさと男の弱さ(純情)です。

・ジーノは一緒に逃げようとジョアンナを誘いますが、現実的なジョヴァンナは先の見えない生活を恐れて拒み、ジーノはひとりで放浪の旅に出ます。女は地足を着け、男は「見るまえに翔ぶ」というメタファーです。

・ジーノは、主人とジョアンナに街で再会し、主人に誘われるまま店に舞い戻ることになります。帰路、ジーノとジョアンナは車の事故に見せ掛けて主人を殺害します。二人が陰謀をめぐらすシーンはありませんが、主人に隠れてキスをするシーンがあります。このキスシーンは、明らかにジョアンナが仕掛けジーノは受け身。「少しの辛抱よ」とジョアンナは言いますから、主人殺害計画は既に出来上がっていたことになります。運転を代わったジーノはジョアンナを降ろし、カーブが曲がりきれずに転落したと見せかけて見事に主人を殺害。警察には主人の酔っぱらい運転と証言し、事故として処理されます。この計画も、地理に明るいジョアンナの計画に他なりません。

・主人は、俺は子供が欲しいんだがジョアンナは体型が崩れると嫌がっている、とジーノにボヤキます。ジーノとジョアンナが車で逃亡するシーンでは、ジーノの子を身ごもったジョアンナは、「じきにお腹が大きくなって醜くなるわ でもいいわ誇らしいもの これが人生なのね」と言います。店に戻ったジーノは、見事ジョアンナに絡め取られていたことになります。

・ジーノは主人の影に怯え、店を売って遠くで暮らそうと言いますが、ジョアンナはまたも先行きのない生活を嫌い、店を再開しバンドを入れて集客を図り大繁盛。ジーノに結婚を迫りますが、店に現れてわずか数ヶ月で主人が死に若い未亡人と結婚して店を継ぐ、どう考えてもおかしいと世間は噂しジーノも躊躇しますが、ジョアンナは腹が座っています。

・ジョアンナは二人の関係を牧師に相談します。牧師はほとぼりが冷めるまでジーノが離れて暮らすことを提案し、ジーノはここを出ようと主張し、ジョアンナは世間の噂など怖くはないと言います。

・ジョアンナに支配される生活に嫌気がさしたのか、ジーノは踊り子と浮気します。この時のジーノの服装は、情けないことにどう見てもジョアンナに買ってもらったもの。浮気を知ったジョアンナは、私と帰るか警察に捕まるかジーノに選択を迫ります。ジーノは警察の動きを察知し、ジョアンナが自分を警察に売ったと考えます。ジーノの子供を身ごもったジョアンナは、ジーノを引き留めるためか、ひとりで生きることを決意したのか、この地を離れるために荷造りをします。現れたジーノに妊娠を告げ、男は女の軍門に降ることになります。

 警察に追われる二人は車で逃亡し、主人を殺した同じ道で?事故を起こしジョアンナは死んで幕。アメリカ班にあった裁判シーンはありません。どう見てもこの映画の主役はジョヴァンナ。ヴィスコンティは、アメリカのクライムノベルを換骨奪胎し、男と女の愛憎劇、強い女と弱い男の愛の物語を作ったことになります。これがネオレアリズモと言われればそんな気もします。ヴィスコンティの映画にサスペンスはありませんが、個人的にはアメリカ版よりこちらの方が面白いです。

監督:ルキノ・ヴィスコンティ
出演:マッシモ・ジロッティ クララ・カラマイ

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