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映画 ヨーロッパ横断特急(1966仏) [日記(2019)]

ヨーロッパ横断特急<HDレストア版> [DVD]  原題”Trans-Europ-Express”。ヌーヴォー・ロマンの小説家アラン・ロブ=グリエの映画ですから、ヒッチコックの『バルカン超特急』のようなサスペンス映画だと思って観るとアテが外れます(アテが外れたのは→私)。

 ストーリーは、ヨーロッパ横断特急(TEE)で麻薬を密輸する話です。麻薬の密輸というと犯罪、サスペンスということになるのですが。男エリアス(ジャン=ルイ・トランティニャン)は麻薬を運んでいるのではなく、運び屋に適しているかどうか組織からテストを受けているという設定。パリの街角で鞄を交換し、パリ北駅からTEEに乗ってベルギーへ向かいます。途中、列車のコンパートメントに席を取りますが。そこにいる三人の男女は、TEEを舞台にサスペンス映画の脚本を練っている、三人のひとりが監督のアラン・ロブ=グリエ。監督の脚本通りエリアスは行動するわけで、アラン・ロブ=グリエが現実とすればエリアスの世界は虚構。映画そのものが虚構ですから、コンパートメントで映画の脚本を作る3人も虚構。映画を製作しているアラン・ロブ=グリエと、映画を観ている観客だけが現実という世界です。
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 で、映画はというと、麻薬を密輸するという犯罪のシミュレーション、これも虚構。犯罪組織、麻薬の密輸、国際列車、拳銃と道具立てだけは揃っていますが、拳銃は発射されず、エリアスを追うのは警察ではなく、エリアスの運び屋としての適正をテストする犯罪組織。サスペンスには美女が付きものというわけで、アントワープで娼婦エヴァ(マリー=フランス・ピジェ)がエリアスに近づきます。エリアスとエヴァが演じるのは、なんとSMプレイ。

 後半、”007”のジェームズ・ボンドのポスターとエリアスが写るシーンで、納得します。この映画は”007”をカリカチュアだと考えるとすべての辻褄が合ってきます。エリアスの観るSMショーも、”007”によく似たシーンがありました。スペクターが犯罪組織で、娼婦エヴァはボンドガールというわけです。007が戯画であれば、ボンドガールには娼婦、ラブロマンスよりSMプレイがふさわしいわけです。

観客(アラン・ロブ=グリエ(ヨーロッパ横断特急(エリアス(ジェーム・ズボンド))))

とでもいう入れ子構造で、マトリョーシカの最後の人形がジェーム・ズボンドという虚構、戯画、絵空事、フィクション、ロマン。結局エリアスはエヴァを殺し、エリアスは組織に殺されます(映画のヒーローとヒロインは死ぬ必要があった)。アラン・ロブ=グリエ等映画製作の3人はパリ北駅で列車を降り、その背後で、これも列車を降りたエリアスと出迎えるエヴァが抱き合います。まさに虚構。『ヨーロッパ横断特急』とは、映画の本質を記述する”メタ”映画と言うことができます。
 面白いかというと、全然、全く、面白くありませんが、不思議と眠くもならず最後まで観てしまいます。お薦めかというと全然、全く、お薦めしません(笑。ジャン=ルイ・トランティニャンは『男と女』のレーサー・ルイです、懐かしい人には懐かしい。

監督脚本:アラン・ロブ=グリエ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン マリー=フランス・ピジェ

タグ:映画
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Lee

メタフィクションの最初は17世紀のドンキホーテだそうですが、そう気づいたのは1970年代とのこと。19世紀のマネも絵画で似たようなことをやっていますね。好みは別として多元的な視点が求められる時代になったのでしょう。
by Lee (2019-12-08 12:27) 

べっちゃん

何時もご訪問頂きありがとうございます。amazon primeにはいろんな映画があるものだと感心します。
by べっちゃん (2019-12-09 11:49) 

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