SSブログ

百田尚樹 夏の騎士(2019新潮社) [日記(2019)]

夏の騎士  小学5年生の落ちこぼれ三人が、「秘密基地」を作り「騎士団」を結成する話です。時は1980年代の終わり、昭和が終わり平成とバブルが始まろうとする頃。「秘密基地」という言葉がかろうじて生きていた時代の話です。三人は、医者の息子で兄二人は秀才だが本人は落ちこぼれの三男健太、未婚の母を持つ生活保護家庭の陽介、そして語り手宏志。勉強もスポーツも駄目、喧嘩も弱いという小学生にしてすでに落後者?が団結して人生に立ち向かいます。

 「騎士団」というのは宏志によると円卓の騎士、騎士はレディーに愛と忠誠を捧げるものだと、彼らが担いだのは同級生の有布子。帰国子女で頭がよくて美少女。有布子が、三人に有名中学受験の模擬テストを受ける課題を与え、騎士の「馬上槍試合」だと考えてこれに挑戦します。無謀と云う他はなく、落ちこぼれの三人に恥をかかせようと誰かが仕組んだイジメです。これが第一のプロット。
 もうひとつが、学習発表会の劇「眠れる森の美女」。ヒロイン・オーロラ姫に女子の満場一致でクラスの嫌われ者・壬生紀子が選ばれます。壬生紀子は、母親が近所で噂の狂人という負を背負った子供という設定で、これも一種のイジメ。宏志は義侠心から壬生紀子の相手役フィリップ王子に名乗りをあげます。鼻つまみ女子と落ちこぼれの男子のカップルが出来上がったわけです。落ちこぼれの宏志が、模擬テストと学習発表会のヒーローに挑戦するという物語ですが、結論は言うまでもありません。壬生紀子の応援で三人は模擬テストの勉強を始め、彼女のリードで宏志は学習発表会を乗り切り、この四人は鼻つまみ女子と落ちこぼれから脱出します。

 このビルツィングスロマンに女子小学生が変質者に殺されるという事件が加わって、「スタン・バイ・ミー」の雰囲気もあり。

 成長した四人、健太は見事に医師となり(自衛隊の医師というのがいかにも百田センセイ)、陽介は税理士となって一家は生活保護から脱出し、壬生紀子は東大法学部を出て経産省の官僚となるに至っては都合よすぎるでしょうね。語り手宏志はというとTVの構成作家を経て作家となるのですから、百田センセイそのまんま。おまけ宏志は紀子の夫だそうですから、キッチリ作者の成功譚のような気もします、『錨を上げよ』の前日譚のような小説です。

 百田センセイは、『永遠の0』『海賊とよばれた男』『錨を上げよ』を読みましたが、絶筆宣言をした後の最後の小説がコレでは少し寂しいです。小学生イジメがありますから、中途半端な殺人事件など削って、イジメの病理を解剖してその克服の物語とでもすれば、もう少し読ませる小説になったのでは。いずれにしろ、ジュブナイルです。

タグ:読書
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。