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角田房子 閔妃暗殺 ④(1988新潮文庫) [日記(2019)]

閔妃(ミンビ)暗殺―朝鮮王朝末期の国母 (新潮文庫) 日清戦争戯画.jpg

三国干渉
  続きです。日清戦争の本質は、ヴィゴーの戯画が何よりも端的に語っています。日本は大院君を担いで傀儡政権を樹立し、朝鮮政府の要請という名目で清国軍と戦い(清を朝鮮から追い出す)日清戦争を始めます。日本が大国清に勝てると誰も考えていないわけで、大院君も閔妃も傀儡政権の首班も清に「日本軍を追っ払ってくれ」と親書を送ります。平城の清国軍が撤退の時この親書を残していったため、裏切りは日本側に筒抜け。従って、朝鮮側は日本の内政改革案まともに実行する気はありません。
 日本政府は、親日政権に送り込むため甲申政変の生き残りで日本に亡命していた朴泳孝を帰国させます。閔妃は朴泳孝を取り込み、日清戦争で勝利しつつある日本に接近をはかるしたたかさ。
 戦争には勝利したものの、露仏独の「三国干渉」によって、占領した遼東半島を放棄させられます。日清戦争によって国力を使い果たし、三国と事を構える余裕はありません。この「三国干渉」によって、日本の朝鮮での地位は低下、朝鮮は鉄道敷設権などの権益を次々と他国に渡します。下関条約で朝鮮を独立国と謳った手前、朝鮮が他国に権益を渡すことについて、日本は文句が言えません。閔妃は、日本の勢力低下につけこみロシアに近づき、日本政府の下で発せられた内政改革政令は取り消され、親日政権は骨抜きとなります。日本政府は危機感を抱き、これが閔妃暗殺の引き金となったと思われます。

乙末事変(閔妃暗殺)
 日本軍守備隊、領事館警察官、日本人壮士、朝鮮親衛隊、朝鮮訓練隊等が景福宮に突入し閔妃は斬り殺されます。暗殺の黒幕は、当時の朝鮮公使・三浦梧楼、大院君などの説があるようですが、高宗を意のままに操れる閔妃がロシアと結び付き、日清戦争までした朝鮮における日本の地位は風前のともしび。ロシアの進出は日本の安全保障を脅かします。閔妃こそが抵抗勢力と考えた三浦に、”閔妃を除く”という発想が生まれるわけです。暗殺に至る政治的状況を見ると三浦梧楼説が濃厚、ほぼ定説です。

 日清戦争後の朝鮮外交の失敗により、朝鮮公使は井上馨から三浦梧楼(陸軍中将)に替わります。三浦は公使になるにあたって、1)日本が朝鮮の防衛及び改革を担当する、2)列強と共同で保護する、3)列強が反対し戦争の危機となれば、列強の一国(ロシア?)と朝鮮を分割統治する、の三案を政府に提出し承認を得ようとします。1)は日韓併合となって現実のものとなり、2)は朝鮮戦争後の国連支配、3)は現在の半島の状況と、三浦の提案は後日実現されたことになります。政府は三浦の提案に回答せず、三浦は公使を辞退しますがけっきょく受諾させられます。

政府無方針のままに渡韓する以上は、臨機応変、自分で自由にやるほかはないと決心して赴任したと、のちに彼は書いている。
 日本の各界が朝鮮へかける期待を、三浦は充分に知っていた。それに答える道は王妃暗殺以外にないと、この時彼は心を決したのだ。

というのが著者の推測です。著者はまた閔妃暗殺に関わった新聞「漢城新報」の小早川秀雄は手記を引用して、

「日本の温和な対韓外交では、とうていロシアに対抗することは出来ない・・・これに対処する道はいずれにあるのか、ただ非常の手段に訴えて露韓の関係を断ち切り、ロシアの頼るところ失わせるほか、ほかに道はないのである。言いかえれば、宮中の中心であり、代表者である閔后を除いて、ロシアの結託すべき当事者を失わせるほか、他に良策はない。」
・・・このように(事件に関わった日本人)全員が「閔妃暗殺は、日本の将来に大いに貢献する快挙であると」と信じて、一点の疑いも抱いてはいなかった。

と記します。
 事変後、三浦は大院君を執政に親日派金弘集を首班に内閣を改造し、大院君の長男を宮内大臣据え、王宮の警固に日本の指導で設立された訓練隊あてます。日本公使・三浦のクーデターというほかは無いです。この事変に日本政府が関わっていたのかどうか?。政府は小村寿太郎をソウルに派遣し、三浦始め関係者48人を召喚し広島に収監します。彼らは凱旋軍として迎えられ、広島地裁で始まった裁判では全員が無罪、免訴となり、朝鮮政府は朝鮮人の犯人を捕らえて処刑し事件の幕引きを図ります。政府中枢の関与の証拠はありませんが、国家による犯罪とされても致し方ありません。大院君を担ぎ出した岡本柳之助と陸奥宗光の関係から陸奥はこれを知っていた、知っていて政府に報告しなかった、というのが著者の推理です。
 日本には日本の事情があるわけですが、日本公使が日本軍を使って他国の王妃を殺すわけですから、国家の犯罪と言われても仕方がありません。

 本書に沿って李朝末期の日韓関係を見てきました。眼を覆いたくなるのは、王権の復活に腐心する大院君、私利私欲に走る閔妃の国民を置き忘れた権力抗争。それを許した李朝政府(宮中の両班階級)の当事者意識の欠如と腐敗。そもそも、李朝末期に朝鮮に国家、国民という認識があったのか?。朝鮮は国家だったのか?という疑問です。軍という暴力組織を独占し官僚組織を持っていますから、一応国家ですが近代国家とは言えなさそう。日韓併合が無かったとしても、19~20世紀の帝国主義、植民地主義時代に、朝鮮が国家として生き残れたかどうかははなはだ疑問です。『閔妃暗殺』やっと読了、面白かったです。

閔妃暗殺
 ①大院君、閔妃
 ②江華島事件、壬午軍乱
 ③甲申政変、甲午農民戦争 →日清戦争
 ④三国干渉、乙末事変 ・・・このページ

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