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韓国の高校歴史教科書 ①《李朝末期》 (2006明石書店) [日記(2019)]

韓国の高校歴史教科書 (世界の教科書シリーズ)  『 閔妃暗殺』を読むと、李朝末期の政治の腐敗がその後の朝鮮の運命(日韓併合など)を決めたように思います。1961年の軍事クーデターで権力を握り、高度経済成長(漢江の奇跡)を成し遂げた朴正熙は、

李朝史を四色党争、事大主義、両班の安逸な無事主義的生活態度によって後代の子孫に悪影響を及ぼした民族的罪悪史であると考える。時に今日の我々の生活が困難にみちているのは、さながら李朝史の悪遺産そのものである。(朴正熙選集二)

と書いていますが、現代の韓国がこの歴史をどのように評価しているのか気になったので、韓国の高校の歴史教科書を読んでみました。
 教科書は、「先史時代の文化と国家の形成」で古朝鮮が扱われ、「統治機構と政治活動」、「経済構造と経済生活」、「社会構造と社会生活」、「民族文化の発達」と、政治、経済、社会、文化の4分野に分かれ、それぞれの古代~近現代が記されています。私が習った教科書は、飛鳥時代・飛鳥文化、元禄時代・元禄文化と編年体でした。少し変わった構成です。

 李朝は、1392年高麗の李成桂に始まります。士林派と勲旧派の抗争、朋党政治、勢道政治の弊害など当たり前に記されています。いよいよ大院君と閔妃、

興宣大院君は王朝の危機を克服し、失墜した王権を回復しようとした。すなわち、人材の登用、景福宮の再建、備辺司廃止、議政府と三軍府の機能回復・・・ (朋党の巣窟)書院を47ヶ所だけを残して撤廃すると同時に、農民蜂起の原因と目された三政を改革して国家財政を拡充し、民生を安定させようと努力した。
 
 確かにそれはそうなんですが、これではまるで名君。鎖国政策が朝鮮の門戸開放を遅らせたとは書いてますが、キリスト教弾圧で8000人虐殺したとは記されていません。
 閔妃のクーデターは、

1873年に高宗の親政によって興宣大院君が退き、閔氏勢力が権力を握り、開港と通商条約を主張する集団が政治的に成長した。

まさか嫁と舅が争ったとも書けませんから...。壬午軍乱の原因は給与の遅配と汚職、庶民の疲弊なのですが、開化政策の推進過程で疎外された、軍人と下層民が起こしたとなっています、「疎外」です。甲申政変はというと、

開化派政権は3日で倒れてしまった。これは甲申政変が推進勢力の政治・軍事的基盤が弱く、民衆の支持を得ることができず外勢に依存したためだった。しかし、甲申政変は近代国民国家建設を目標とした最初の政治改革運動だったことに意味がある。

この「外勢」とは日本のことで、「政治改革運動」の背後には勢力拡張を目指す日本がいるわけですが、日本の後押しで甲申政変が行われたとは書けなかったのでしょう。甲午農民戦争は、

開化政策の推進にもかかわらず三政の乱れ近代文物の受け入れ各種賠償金の支払い日本の経済的侵入などによって農民層の不安と不満が高まった。政治・社会的意識が急成長した農村知識人と農民による社会変革への欲求も高くなった。このような雰囲気の中で人間の平等と社会改革を主張した東学が三南地方を中心に広がった。
・・・東学農民運動は農民層が伝統的支配体制に反対する改革政治を要求し、外勢の侵略を自主的にはね除けようとした点で下からの反封建的、反侵略的農民運動であった。たとえ当時の執権勢力と日本侵略的勢力の弾圧によって運動自体は失敗したとしても、彼らの要求は甲午改革に部分的に反映された。(下線は引用者)

三政の乱れとはすなわち政治の失敗、近代文物の受け入れ日本の経済的侵入とは開港によるインフレを指します。伝統的支配体制とは「閔氏政権の重税政策、両班たちの間での賄賂と不正収奪の横行(wikipedeia)」を指すわけですが、抽象的に「伝統的支配体制」と言ってしまえば甲午農民戦争の真相は見えてきません。この項にある甲午改革については、

金弘集内閣は農民の不満と改革への要求を反映させようと軍国機務処を設置し、政治、経済、社会など国家の主要政策に対する改革を推し進めた。甲午改革では内閣の権限を強化し、王権を制限した。そして身分制を撤廃し、各種の弊習を打破した。また、銀本位制度と租税金納化を実施し、度支衙門が国家財政管轄するようにした。高宗は改革を積極的に推し進めようと洪範十四条を頒布した。

この文脈では、改革は朝鮮内部から行われたように読めますが、一連の改革案を出したのは公使・大鳥圭介、井上馨です。日本政府は、安全保障(懸念はロシアの南下)のため朝鮮の近代化を目指し改革を推し進めたわけです。改革案は頒布されたものの実行は覚束ず、なし崩し的に葬られます。

『 閔妃暗殺』を読むと、李朝末期は政治的混乱が壬午軍乱、甲申政変、甲午農民戦争を引き起こし、日韓併合に至る朝鮮民族の悲劇と映り、一方、教科書を読むと、朝鮮民衆と開化派による輝かしい改革の歴史だったということになります。韓国の高校生が読めば、誇らしい民族の歴史に勇気百倍となるでしょう。面白いです。
続きます

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