SSブログ

呉 善花 韓国併合への道 完全版 ① (2012文春新書) [日記(2019)]

韓国併合への道 完全版 (文春新書 870)  日韓併合に至る李朝末期の歴史に、「日本の統治は悪だったのか?」「反日政策と従軍慰安」の二編の論評を加えた著作です。著者は済州島生まれで日本に帰化した大学教授で、韓国に入国を断られた「実績」を持つそうです。本論は、大院君の登場から閔氏一族の勢道政治、軍乱、政変、農民戦争、閔妃暗殺を経て日韓併合に至る朝鮮の近代史です。その李朝末期に日本政府がどう関わっていったのか、日本併合が現代の日韓関係に如何なる影響を及ぼしているのか、が記されます。

まえがき
「まえがき」によると、

日本人といえば「過去を反省しようとしない人たち」と教えられ、そう思い込み続けてきた。・・・
戦後の韓国で徹底的になされてきたことは、「日帝三六年」の支配をもたらした「加害者」としての日本糾弾以外にはなかったのである。 しかしそれはどうやら、韓国人のほうにあてはまる言葉だと知った。・・・本書のモチーフは、日本に併合されるような事態を招いた韓国側の要因を、その国家体質・ 民族体質を踏まえながら、歴史的な事件とその経緯のなかから究明していこうというものである。

 来日した著者は、自分の受けてきた来た教育はどうも違うな、と考えたわけです。『韓国の高校歴史教科書』を読みましたが、近代、特に日韓併合についての歴史は、著者の言う「日帝の不法で過酷な支配と冷酷な収奪」に対する「我が民族の勇敢な抵抗と正義の独立運動」という視点から再編集されたものです。日帝の土地収奪が国土の40%という数字はさすが消えていましたが、「日本軍慰安婦の実情」というコラムでは、慰安婦の数は10~20万人としっかり載っています。この「歴史認識」を検証しようというのが、本書のねらいです。

儒教と李朝
 歴史を扱った記述に挟まれる、著者の「歴史認識」は興味深いです。例えば、

朝鮮半島には、日本やヨーロッパのように武人が支配する封建制国家の歴史がない。中国と 同じように、古代以来の文人官僚が政治を行なう王朝国家が、延々と近世に至るまで続いたのである。併合の主体となった日本は近代国家であったが、併合されたほうの国家の実質は、近代国家でも封建国家でもない王朝国家だったのである。(下線引用者)

李朝は極めて儒教色の強い王朝ですから、政治は科挙に合格した文官による文治主義の王朝、儒教(朱子学)による王朝支配です。半島は古代以来、正史に記録されているだけでも2000年に1000回の異民族による侵略を受けているそうで、高句麗・新羅・百済の三国や統一新羅は、強力な軍事力を持っていたようですが、1300万人の人口を抱える李朝の軍隊はわずか二千数百人?。しかもその軍隊を文官が率いるわけです。

李朝国家では軍事を司る要職のほとんどが文官によって占められており、武官には事実上政府要人への道が閉ざされていた。そして儒教的な文治主義の立場から、外国との間に生じる諸問題の解決は、可能な限り政治的な外交によって処理することがよしとされ、国土の防衛は宗主国である中国に頼る方向で考える傾向を強めた。

 儒教の影響は、思想だけではなく、軍事という国家の安全保障にまで影響を及ぼしていたのです。貧弱な兵力しか持たない李朝は、壬午軍乱、甲申政変、甲午農民戦争でも、清国や日本に出兵を要請する他はなかったわけです。
 アメリカの史家ヘンダーソンによると、李朝が近代と触れるようになる1860年前後の政治と社会は、

「李朝はもはや経済的破産と崩壊の寸前であった。すでに軍事力はほとんどなく、政権の分裂と内紛で行政は麻痺状態となり、慢性的百姓一揆の機運に脅かされていた」(グレゴリー・ヘンダーソン『朝鮮の政治社会』)

という有様。このことは、イザベラ・バード『朝鮮紀行』にも同様の記述があります。

李朝の政治は、徹底的に規格化された制度と画一的な手段を用いての政治だった。それをヘンダーソンは、「すべての非正統的活動」を執拗に排除しようとする「嫉妬深い中央集権主義」 と形容している。
李朝の中央集権主義はまさしくそのように、自らの権力の正統性とそれに基づく「統一性の 威厳」を少しでも損なおうとするものを、執拗に排除し続けたのである
・・・李朝ほど強固で長く統一を保持し続けた王朝国家は例がないと言われるが、李朝の統一は、 社会とか民族とか、大集団の利益の大局的な一致によって維持されたのではなかった。その逆 に、バラバラに分散した個が一様に中央の一点を目指す、「周縁から中心へ」と向かう一極集 中のダイナミズムによって保たれていたのである。
・・・横のつながりを失った無数の小集団(主として家族)が、それぞれ自己の利益を目指し、中心の権威という甘い蜜に向かって猛然と突き進む、という力学によって 維持されたのである。

 李朝を「子孫に悪影響を及ぼした民族的史」「悪遺産」と言ってのけた朴正熙(元大統領)と通じる、韓国人による自己批判です。前段は現在の日韓関係を連想し、後段は古田博司の「ウリとナム」理論そのものです。

 以上が大院君が登場する背景ですが、大院君と閔妃との権力闘争をみるかぎり、その後も同じこと。日本や列強の進出によって政治、経済、社会の混乱はさらに混迷の度を深め、李朝は『韓国併合への道』をたどるわけです。

続きます

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。