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サラ・ウォーターズ 荊の城 (下) (2010創元推理文庫) [日記 (2020)]

荊の城 下 (創元推理文庫)  引き続き ネタバレです。
 スウは、モードを騙したつもりが反対に騙され、モードの身代わりに「気狂い病院」に送られるというのが上巻。スウとモードは同性愛の関係になっていますから、下巻で、モードはスウを気狂い病院から救出するのか?、モードの巨額の財産行方は?、ということになります...。

 伏線の回収がおこなわれ、ストーリーは混迷の度を増します。
 モードとリヴァースは、叔父の追っ手から逃れ、ほとぼりが冷めるまでスウの実家、イッブズ親方の泥棒一家に身を寄せます。ここでサクスビー夫人によって事の真相が明かされます、ネタバレ2です。モードの財産乗っ取り計画は、リヴァースの独創ではなく、サクスビー夫人の計画にリヴァースが荷担したのだったのです。

ネタバレ2
 不義の子を身籠ったモードの母親マリアンは、サクスビー夫人頼って泥棒一家に身を寄せ女の子を産みます。サクスビー夫人は、モードを生まれる前から知っていたのです。マリアンを追って父親と兄(上巻のポルノ蒐集家)が現れマリアンとその娘を連れ去ろうという時、スウとモードの「すり替え」が行われます。

 サクスビー夫人は歓迎されない赤ん坊を引き取って「売る」というのが生業。泥棒一家には「商品」の赤ん坊がゴロゴロいるわけです。父親と兄に娘を渡したくないマリアンは、夫人が養う赤ん坊と自分の娘をすり替え、娘をサクスビー夫人に託します。「商品」の赤ん坊はブライア城で「お嬢様」モードとして成長し、マリアンの娘はサクスビー夫人の下で掏摸スウとなったわけです。マリアンは、ふたりが18歳になった時自分の財産を半分づつスウとモードに贈る念書をサクスビー夫人に遺します。
 スウが18歳になれば、財産の半額はスウの母親であるサクスビー夫人のものとなりますが、夫人は財産全額を手に入れるため、18歳になる寸前にモードの誘拐を計画したわけです。誘拐したモードは手元に置き財産の半分を入手、スウに渡る残りの半分は(法律上の)夫リヴァースを通じてこれも入手。リバースに分け前を払っても財産の大半がサクスビー夫人のものとなるわけです。
 気狂い病院に閉じ込めるのは、スウでもモードでもどちらでもいいは筈で、何故スウなのか?(謎1)。

ネタバレ3
 モードは、泥棒一家はスウを気狂い病院から助け出し自分を殺すと考え、逃亡を図ります。ロンドンを逃げ回った挙げ句に行き場を失って泥棒一家に舞い戻り、第三部となります。
 第三部の語り手は「あたし」スウ。スウが気狂い病院で虐待される苦難の日々が描かれます。読者サービスかと思うほどに、騙されたスウの無念と看護師による虐待の描写は執拗で長い!。ご都合主義的なところもあるわけですが、ブライア城で知り合った少年が面会に現れ、少年の助けでスウは脱走します。
 ”ネタバレ2”を知らないスウは、リヴァースとモードに復讐するため泥棒一家に帰り、役者が揃いネタバレ3となります。

 スウは、ナイフを持ち出し刺し殺さんばかりにモードに迫ります。サクスビー夫人がスウに”ネタバレ2”を打ち明け、アンタを気狂い病院から助け出し財産を山分けする積もりだった、と言えば丸く治まったのでしょうが(それでは小説にならない)夫人は何も言わず、スウのナイフでリヴァースを刺し殺します。モードとサクスビー夫人が同時にリヴァースに近づき、リヴァースの腹にナイフが刺さった。夫人は殺害を自供し、その場に居合わせた同居人の証言から、サクスビー夫人は有罪となり絞首刑となります。作者は、サクスビー夫人が殺したとは一言書いていません。サクスビー夫人は本当にリヴァースを殺したのか?、その動機は?(謎2)。

 犯行に至る前段を読むと、

「そうだったのか」彼(リヴァース)は笑いだした・・・「やっと、わかったぜ!

「いいえ、あなたは何もわかっていない」モードはリヴァースに向かって一歩踏み出しながら、あたしをちらっと見た。「リヴァース、あなたは何も知らないのよ」
彼はモードに首を振ってみせた。「もっと早く気がつかなかったなんて、ぼくは大馬鹿だったよ! はっ傑作だ! きみはいつから知ってたんだ? そうか無理もないな、きみがあれだけ暴れて、大騒ぎしたのも!  あれだけ強情だったのも! サクスビーさんがきみに好き勝手させておいたのも! ぼくはずっとそれが不思議だった。かわいそうに、モード!」わざとらしく笑った。「それに、なあ、サクスビーさんも。気の毒に!」
「黙って!」母ちゃんが叫んだ。「聞こえないのかい? これ以上は許さないよ!」
母ちゃんも一歩踏み出した

 何が分かったのか?。リヴァースは、モードがサクスビー夫人の実の娘だと気づいたのです。もう一つの謎、リヴァースを殺したのは誰か?です。第三部の語り手スウよると、

次に何がどうなったのか、はっきりとはわからない。彼(リヴァース)の言葉を聞いて、あたし(スウ)が、ぶん殴って黙らせるつもりで、一歩前に踏み出したのは覚えている。モードと母ちゃんがあたしより先に彼に近づいたのも。母ちゃんが彼に向かっていったのか、それとも---モードが飛びかかるのを見て---モードのほうに飛び出したのかはわからない。何かが煌めき、光が走った。・・・イッブズ親方が怒鳴っていた。「グレース! グレース!」この混乱の真っ最中に、親方は何を言っているんだろう、と妙に冷静に考えた。だけど、これこそ、あたしたちがほとんど初めて耳にする、母ちゃんの名前だった。だから、それが起きた時にあたしが見ていたのはイッブズ親方だった。(たぶん、モードの父親はイッブス親方?)


 リヴァースに、モードがサクスビー夫人の娘であることをバラサレかけ、夫人とモードは彼の口を封じるためナイフを突き立てたのです。

 実は裏があって、マリアンとモードを連れ帰った叔父(ポルノ蒐集家)は、モードが結婚するまでモードは遺産を相続できないという遺言状をマリアンに書かせ、サクスビー夫人はこの事を知っています。したがって、スウがマリアンの娘だとなる、遺産はスウとその(法律上の)夫であるリヴァースのもの。モードが夫人の実の娘だとなるとどうなるのか。モードに遺産は入らず、「駆け落ち」を偽装してまで兄の元を逃げ出した苦労が水の泡。だからふたりはリヴァースの口を封じた。というのは推理としては成り立ちますが、ゴシック・ミステリーの動機としては相応しくないような。
 結局サクスビー夫人は、リヴァースと家賃のことで揉めて殺人に及んだと自白し、絞首刑となります。モードがリヴァースを殺しサクスビー夫人が娘をかばった、というのが真相のような気がしますが、モードの動機がいまいち?。もうひとつの?が、サクスビー夫人はスウを助け出す気はなかったのか?ということ。17年間、実の娘同様に育てたスウを、一生気狂い病院に閉じ込めるというのは、ちょっと考えられない。実の娘モードが戻ってきたとは言えです。スウと死刑囚となったサクスビー夫人の濃やかな交情は、17年間ともに暮らした記憶の集積です。夫人は何故裏切ったのか?、その裏切りをスウはどう考えていたのか?

 泥棒一家は崩壊し、モードはブライア城に帰りナント(叔父の跡を継いで?)モードはポルノ作家になっています。スウはモードを訪ねます、ラストは作者お得意の同性愛、

 あたしがキスすると、モードの身体は震えた。あたしはキスでモードを震わせた時のことを思い出し、がたがたと震えだした。あたしは病み上がりだった。気絶しそうだ! 身体を離した。モードは心臓の上に片手を当てている。まだ紙(ポルノの原稿)を持っている。それは床にひらひらと落ちた。あたしはかがんで拾い上げ、皺を伸ばした。
「なんて書いてあるの?」
「わたしがあなたにしてほしいことがたくさん……来て」


 結局、これが書きたかったのだと思います(笑。面白いと言えば面白いですが、どちらかというと『エアーズ家の没落』の方が好みです。サラ・ウォーターズはこの辺で打ち止め。

タグ:読書
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