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劉慈欣 三体 (早川書房2019) [日記 (2020)]

三体  オバマ前大統領が絶賛して話題となった、中華SFです。
紅岸
 1967年、中国。紅衛兵による批闘会(大衆団交、吊し上げ)で幕が上がります。吊し上げられるのは理論物理学者の葉哲泰。葉の相対性理論やビッグバン理論の講義が反動的だと批判され、彼の妻も批判の先頭に立ち、葉は批闘会で暴行を受け死亡します。狂気のもとで理性圧殺され、母親が我が身を護るために夫を裏切るという、一切を目撃した娘の葉文潔は、

人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけなのではないか。人類がみずから道徳に目覚めることなどありえない。自分で自分の髪の毛をひっぱって地面から浮かぶことができないのと同じことだ。もし人類が道徳に目覚めるとしたら、それは、人類以外の力を借りる必要がある。

と考えるようになり、これがネタ振りとなります。
 反動、反革命の父親を持つ文潔は、大興安嶺の建設現場に飛ばされ、学生時代に書いた天体物理学論文に注目した政府の科学者によって〈紅岸基地〉にスカウトされます。紅岸とは、巨大なパラボラアンテナを持つ軍の研究施設。

三体
 タイトルの「三体」とは。主人公のひとり汪淼(おうびょう)が体験する三つ太陽が存在するヴァーチャルなnetゲーム。三つの太陽があるために季節に法則性がなく、極寒と極暑によって文明は興亡を繰り返す世界。文明を生き延びさせれば、プレーヤーのグレードがアップし、汪は様々な文明でプレーします。ゲームですから何でもアリ、ゲームには中国の古代王・周王からガリレオ、ニュートンからフォン・ノイマンまで登場し、ステージ終わりには、

文明#183は三太陽の日によって滅亡しました。この文明は中世レベルまで到達していました。長い時間のあと、生命と文明が再起動します。『三体』の世界で予測不能の進化がふたたびはじまるでしょう。しかし、この文明で、コペルニクスは宇宙の基本構造を示すことに成功しました。三体文明は、最初の飛躍を遂げたのです。ゲームはレベル2に到達しました。
『三体』レベル2へのログインをお待ちしています。

といったメッセージが現れゲームは終了します。この三体の世界がVRの世界なのか、”異界”が投影されたものなのかは不明。スピルバーグの『レディー・プレーヤー1』のような、ゲームと現実がクロスオーバーしたSFです。
 一番面白いのが、ニュートン、ノイマンと秦の始皇帝の登場する文明”#184”。ノイマンは、3人の兵士を一人の〈出力〉兵士、ふたりの〈入力〉兵士に分け、にそれぞれ白と黒の旗を持たせます。

・〈入力1〉兵士が●旗、〈入力2〉●なら〈出力〉兵士は●旗を揚げる
・〈入力1〉●、〈入力2〉○なら〈出力〉兵士は○
・〈入力1〉○、〈入力2〉●なら〈出力〉兵士は○
・〈入力1〉○、〈入力2〉○なら〈出力〉兵士は○

という〈論理積〉ゲートと逆の〈論理和〉等を1千万組、3千万人!からなる計算陣営(コンピュータ)を作り、「秦1.0」というOSを動かし、3つの太陽の軌道を計算します。3千万人の人力コンピュータなど、13億の人口を抱える中華SFならではの発想です。
 で計算は成功するのですが、3つの太陽が三恒星直列を起こし文明#184は崩壊。

 汪淼はナノマテリアルの研究者。この汪のライカM2にカウントダウンの数字が写り込むようになります。フィルムカメラにカウントダウンの時刻が写るなどあり得ず、超常現象?。やがて汪の視界にもこの数字が現れるようになります。カウントダウンは、汪の開発するナノ素材製造装置に関連があり、装置を止めると消え、稼働させると再び現れます。さらに、基礎研究の科学者が自殺する事件が続発し、「衝突型加速器」を使った実験では毎回異なる結果が出るという、これも有り得べからざる事態が起きます。「誰かが科学を殺そうとしている!」。

 〈紅岸〉〈三体ゲーム〉〈カウントダウン〉〈科学の崩壊〉と謎に引きずられてページをめくることになります。オバマさんがハマったのも分かります。

続きます

タグ:読書
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