SSブログ

劉慈欣 三体 ② (早川書房2019) [日記 (2020)]

三体続きです。
紅岸プロジェクト
 葉文潔や汪淼(おうびょう)の登場する現実世界はというと、なんと地球外知的生命体探査計画。アメリカにオズマ計画がありましたから、中国にあっても不思議はありません。計画は、〈紅岸〉の巨大なパラボラアンテナによる地球外生命体からの電波の受信と、メッセージの送信。メッセージの第一稿が「笑う」ので引用、

このメッセージを受信したみなさんに告げる。このメッセージは、地球上の革命的正義を代表する国家によって送信された。みなさんは、このメッセージ以前に、同じ方向から送信された別のメッセージをすでに受けとっているかもし しれない。 それらのメッセージは、地球上の、ある帝国主義的超大国により送信されたものであり、その超大国は、地球上のもうひとつの超大国と世界の覇権を争い、人類の歴史を後退させようとしている。彼らの嘘に惑わされることなく、正義の側に立ち、革命を支持してほしい

さすがにこれは採用されなかったようです。どの国が異星人と最初に接触するか、中国はファーストコンタクトによってパワーバランスが崩れることを恐れ、巨額の資金を計画に投じたわけです。政治と国益が優先される国のSFらしいです。

 紅岸基地で葉文潔が地球外知的生命体からのメッセージを受信したことから、ストーリーは中核に入ります。メッセージは「応答するな!」。さらに

この世界はあなたがたのメッセージを受けとった。わたしはこの世界の、ある平和主義者です。・・・もし応答したら、送信源の座標はただちに特定され、あなたがたの惑星は侵略される。あなたがたの世界は征服される!
応答するな! 応答するな!! 応答するな!

葉文潔は応答します、

来て! この世界の征服に手を貸してあげる。わたしたちの文明は、もう自分で自分の問題を解決できない。だから、あなたたちの力に介入してもらう必要がある。

 『三体』が紅衛兵の「批闘会」で幕を開けた理由はここにあります。葉文潔は母校の教授として北京に帰り、1967年の批闘会での父・葉哲泰を殺した紅衛兵を探し当てます。紅衛兵のひとりはこう言います。

「最近、『楓』という映画が公開されてね」と片腕の女が言った。「あんたが観たかどうか知らないけど、映画の最後に、セクト争いのあの時代に死んだひとりの紅衛兵の墓の前で、大人がひとりと子どもがひとり、じっと立ってるんだ。 『この人たちは英雄だったの?』と子どもが訊ねると、大人は『いや、違う』と答える。『敵だったの?』と子どもが訊ねると、大人はまた首を振る。『だったらこの人たちはなんだったの?』と訊かれて、大人はこう答える。『歴史だ』」

 文化大革命は1963年生まれの劉慈欣の世代にも、影を落としているようです。

 メッセージは地球から4.3光年離れたケンタウルス座の三連星から送られたものであり、ゲーム「三体」のVRは、3つの太陽を持つ惑星の知的生命体「三体人」の世界を映したものだったわけです。葉文潔は地球外知的生命体とのファーストコンタクトに成功したのです。
 ゲーム「三体」のプレヤーを中心に三体人の地球来訪を歓迎する「地球三体協会」が作られ、彼らの情報提供によって三体人の地球移住(侵略)計画が始まります。これを知った地球人はエイリアンの侵略に備え、イデオロギーと国を越えて団結することになります。

智子プロジェクト
 「32.監視員」、「33.智子プロジェクト」の2章で、三体文明が描かれ、前半で提出された謎が解かれます。

 三体文明は何故「応答するな!」というメッセージを返信してきたのか?。三体文明にも地球同様に「地球外知的生命体探査計画」があり監視員がいたわけです。地球に人間に絶望した葉文潔がいたように、三体世界にも三体文明に絶望した三体人が存在し、応答すれば地球の位置が突き止められ征服されることを知っている「監視員」は、地球を救おうとしたわけです。
 何故裏切ったのかと問われて、監視員は、

われわれの生活をごらんください。すべてが生存という目的に捧げられています。文明を生き延びさせるために、個人はほとんどまったく尊重されていません。働けなくなった者には死が与えられます。三体社会は極端な専制のもとに存在しています。・・・わたしにとってもっとも耐えがたいのは、単調で枯渇した精神生活です。精神的な弱さにつながる可能性のあるものは、すべて邪悪なものと見なされます。われわれには文学も芸術も、美の追求も娯楽もありません。愛について語ることさえできません……元首閣下、このような人生に意味があるのでしょうか?

何処の国のことを言っているんでしょうw。
 
〈三体ゲーム〉〈カウントダウン〉〈科学の崩壊〉どうやって生じたのか?。

地球人類は狩猟時代から農耕時代まで、十数万地球年を費やしています。また、農耕時代から蒸気機関時代までは、数千地球年を費やしました。しかし、蒸気機関時代から電気時代までは、わずか二百地球年です。その後の数十地球年で、彼らは原子力と情報化の時代にまで到達しました。つまり、地球文明の技術的発展は、恐ろしいけど加速しているのです!。


三体人の宇宙船の速度光速の1/10。地球に到達するには430年かかり、その間に地球の文明は進化し、宇宙船が着いた頃には三体文明を凌いでいる可能性がある。これはまずい、地球文明の進化を止めるために考え出されたのが〈智子(ちし)プロジェクト〉。

第一の計画は、コードネーム ”染色”
 科学技術の副作用を強調することで、大衆が科学に対して恐怖と嫌悪を抱くように仕向けます。たとえば、われわれの社会で技術の発展にともなって生じる環境問題ですが、これは地球上にも存在するはずです。染色計画はこの要素をフルに活用します。

第二の計画は、コードネーム”奇跡”
 地球世界に奇跡を顕現させます。つまり、地球人にとって超自然的としか思えない力を見せるのです。この計画は、いくつかの奇跡を通じ、科学の論理では説明できない、いつわりの宇宙をつくりだすことが目的です。そのようなまぼろしを一定期間でも維持できれば、地球世界では、三体文明が宗教的崇拝の対象となるかもしれません。地球の思想界では、非科学的な思想や方法論が科学的な論理を圧倒し、すべての科学的な思考体系を瓦解させるでしょう。

 この”染色”と”奇跡”によって科学が崩壊し、三体ゲームよって三体文明を崇拝する地球三体協会が生まれたのです。4.3光年離れた三体人はどうやったのか?、その手法は「陽子のスーパーインテリジェントコンピューター化」。陽子を二次元に展開し→そこにコンピューターの回路を書き込み→11次元に圧縮?して…とかで何のことか全く理解不能。その陽子を地球に送り込んでと、まぁSFですからこれでいいんでしょう。

 カウントダウンがカメラに写り込む謎です。陽子のスーパーインテリジェントコンピューターが悪さをしているわけですが、何かというと、警告。ナノ素材は「宇宙エレベーター」を可能とする技術で、三体人はこれを止めたかったわけです。カウントダウンが終了すると何が起こるか書いてませんが、陽子コンピューターですから何でもできそう。第二部以降で、宇宙エレベーターを建造して三体人を迎え撃つのでしょう。

 『三体』は三部作の第一部。第二部以降で三体文明vs.地球の戦いが始まるのでしょう。『三体』の面白さはSFの部分もさることながら、「中華人民共和国」がチラチラ覗くところです。読み様によっては、これはSFの形を借りた立派な体制批判です。
 荒唐無稽が気にならない人にはオススメです。 三体Ⅱへ

タグ:読書
nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。