SSブログ

宮崎駿 コミック 風の谷のナウシカ ② (徳間書店1997) [日記 (2020)]

風の谷のナウシカ 4 (アニメージュコミックスワイド判) 風の谷のナウシカ 5 (アニメージュコミックスワイド判) 風の谷のナウシカ 6 (アニメージュコミックスワイド判) 風の谷のナウシカ 7









続きです。
土鬼
 面白いのは宗教国家「土鬼」。トルメキアは王権国家で、王と3人の皇子の権力闘争に第四皇女クシャナの反乱と、まぁよくある話。土鬼は、僧を氏族の頂点に戴く部族国家の連合体で、これを率いるのが神聖皇帝。現在皇帝は空位で、権力は不老不死の超能力を持つ皇弟が握り、兄が帝位を狙っているという設定です。トルメキアも土鬼も政治的不安定な帝国。君主制国家をドラマで描けば必然的にこうなります。

 土鬼の首都には旧文明の墓所があり、土鬼の国家基盤は墓所に保存された旧文明の技術によって成り立っています。墓所は、火の7日間で文明が滅びるに際し、旧人類が、将来の文明再建のために旧文明の科学技術を収めたアーカイブ。ナント、墓所には墓を守る集団と墓の「主」が住んでいます。旧文明の遺物として宇宙船が登場しますから、墓の主は、『2001年宇宙の旅』の人工知能HALの様なものかも知れません。ちなみに、ナウシカは最後にこの墓の主と対決します。

神殺し
 ナウシカが迷い込んだ「庭」。庭は、墓所が科学技術を収めたアーカイブなら、旧文明の音楽と文学など芸術のアーカイブで、旧世界の動植物を集めたノアの方舟。庭の主によってこの世界の秘密が明かされます。
 自ら造った巨神兵によって世界を滅亡の危機に追いやった旧人類は、汚染された大地を浄化するために腐海を作り、人類復活のために生き残った人々を(環境に適合するように)改造したのです。そして新たな文明復活のために、科学と芸術のアーカイブを用意したのです。この世界を作った「神」がいたというわけです。その神ともいうべき存在が墓所に住む「主」。人類滅亡から千年、人間は主によって業苦を背負って生かされてきたわけです。

 ナウシカと巨神兵の「母と子」は主と対決します。主は、文明の再建に手を貸せ、とナウシカに言います。

やがて腐海の尽きる日が来るであろう 青き清浄の地がよみがえるのだ
浄化のための大いなる苦しみを罪への償いとして、やがて再建へのかがやかしい朝が来よう

それは違う、とナウシカは言います。人類を滅亡の淵に立たせた「主」の科学と芸術は、復興した人類を再び滅亡へと追いやる。お前の知識で作られた土鬼の兵器で多くの人が死んでいるではないか。お前の言う「かがやかしい朝」が来ても、その先に待っているのはまたも破壊と死だ。お前の指図などは受けない!、と。

私達の身体が人工で作り変えられていても
私達の生命は私達のものだ、生命は生命のカで生きている
その朝が来るなら私達はその朝にむかって生きよう、私達はお前を必要としない!

 ナウシカと巨神兵は墓所を破壊し主を殺します。人間による「神殺し」でナウシカの物語は幕を閉じます。

 『風の谷のナウシカ』で描かれたのは何だったのか?。最後にナウシカは墓所とその主、主に使える教団を否定します。したがって、ナウシカたち新人類は、旧人類の軛(くびき)を絶って腐海とともに生きてゆくという宣言の物語です。それはそののまま我々の世界に対するナウシカの「否(ノン)」でもあるわけです。

 マンガで神と人間の対話を読まされるとは思ってもみませんでした。壮大で難解、面白いといえば面白いです。

タグ:読書
nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。