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映画 ミッション・ワイルド(2014米) [日記 (2020)]

ミッション・ワイルド [DVD]  原題:The Homesman。トミー・リー・ジョーンズ監督の西部劇ですが、アクションを期待すると裏切られます。原題のThe Homesmanとは、移民を家に連れ戻す仕事だそうで、これは通常、男性の仕事。男のする仕事を女性がしますから「ミッション・ワイルド」と邦題を付けたのでしょう。Homesmanの意味が分かると、この映画が分かってきます。従って、この映画の主役は、トミー・リー・ジョーンズではなくヒラリー・スワンク。

 メアリー(ヒラリー・スワンク)がロバで畑を耕すシーンから始まります。米西部の農業は、見渡す限りの荒れ地を耕すことから始まります。この地で生きるということが如何に過酷かということを、この数秒シーンに集約しています。メアリーが如何なる理由で西部に移住したのか?ですが、布に描いた鍵盤で架空のピアノを弾く様子から彼女の出身が暗示されます。メアリーは、近所の農夫を食事に招き、結婚を切り出します。私の農地と家畜とアンタの力を合わせれば素晴らしい家庭が築けると。19世紀の女性の少ない西部で、女性から求婚することはかなり異例。逆に言うと、そこそこの財産もある独身のメアリーに、男は誰一人言い寄らなかったわことになります。男は、アンタは偉そうに振る舞うし平凡だ、妻は東部で探す、とメアリーの求婚を一蹴します。女は結婚して子供を生むということが社会通念であり、メアリーも女として結婚を希求したわけです。男が去ったテーブルで、一人となったメアリーはそっと髪に手を触れます。31歳の女の悲哀がにじみ出るようで、ジョーンズ監督の演出は冴え渡ります。演じるのが『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・スワンクですから、絵になります。
 過酷な自然、31歳の婚期を逸した勝ち気な女性、冒頭で描かれるこのふたつが映画の主題です。

 3人の女性が精神に異常をきたします。3人の子供を流行り病で亡くした19歳の女性、飢餓で自分の子供を殺したデンマークの移民、夫から虐待を受ける妻。カウボーイと先住民と騎兵隊の西部劇では決して描かれることのなかった「西部」です。
 村の教会は、この3人をアイオワ州の教会に送ることを決め、3人の夫のひとりがその役目を引き受け、クジ引きで決めようとします。ひとりが拒否したため、メアリーが自ら申し出て代わりにクジを引き、彼女が当たります。つまり、Homes manがHomes womanとなります。メアリーは護送用の馬車を調達し、3人を押し込めてアイオワ州に向かいます。男に求婚して断られたオールドミスが、既婚の3人の女性を護送するという構図です。

 アイオワ州への途上、リンチで殺されそうになった流れ者のブリッグス(トミー・リー・ジョーンズ)を助け、300ドルで雇います。メアリーとブリックス、三人の女達のロードムービーが始まります。先住民が現れたり、女の一人が逃亡を図ったりと、まぁいろいろ事件は起こるわけです。
 あと一週間でアイオワ州に到着するという夜、メアリーはブリッグスに問います。3人を無事に送り届けたらどうするのかと。メアリーは、自分には家と土地と家畜もある、銀行には預金もある、健康だし子供も産める、いい夫婦になれる、とブリッグスに結婚を持ちかけます。(農夫への求婚も同じでしたが)結婚の要件は、愛ではなく財産と子供の産める健康な身体です。トミー・リー・ジョーンズが演じますからブリッグスは初老の男。誰でもいいというわけではありませんが、メアリーの結婚願望の激しさでしょう。ブリッグスはこれを断ります。妻は東部で探すとは言いませんが、孤独がいいと。メアリーはなおも言い寄り、ブリッグスが言葉は無意味だと言ったためか、彼女は全裸となって彼の毛布に忍び込みます。その光景を3人の女達がじっと見ています。メアリーの求婚は成功したのか? →翌朝、ブリッグスは首を吊ったメアリーを発見します。

 メアリーは何故自殺したのか?。初老の男にまで結婚を断られ絶望した、セックスで誘惑した自分を恥じた、結婚できない人生に絶望した →答えはありません。

 メアリーの自殺で映画は終わったと言っていいと思います。後は、ブリッグスがメアリーの任務を引き継ぎ3人をアイオワ州の教会に送り届けます。3人を引き取る人物としてメルリ・ストリーブが登場しますが、意味があるとも思えません。
 トミー・リー・ジョーンズはこの映画で何を描きたかったのか?。
 メアリーは、農場を持ち家畜を育て、過酷な西部で男に頼らなくてもやってゆける自立した女として描かれます。ひとりは寂しいと考えたことも無かったでしょう。逆に、メアリーが護送する3人に女は、男に頼り男に裏切られた女たちです。そんなメアリーが自分から2度結婚を持ちかけ、2度とも断られます。男に惚れたわけでもなく、結婚それ自体が目的化された強い結婚願望です。結婚の要件は、愛などではなく財産と子供の産める健康な身体だと男に迫る様は、痛ましささえ感じます。メアリーを結婚へと駈り立てたものは、女とは結婚して子を産む存在だという当時の通念、彼女に結婚を強いる社会的な圧力だと思われます。そうした圧力は一切描かれていませんが、財産や健康をたてに男に結婚を迫るメアリーの行動はその圧力の強さを感じさせます。
 一方で、メアリーが護送する3人は、彼女が渇望する結婚をして破綻した女性。映画は、彼女たちを救うために奮闘するメアリーが、社会的圧力に屈して?自殺するというアイロニーを描いています。今風に言えば、ジェンダーの映画ということになり、Homes manではなくHomes womanの物語です。

監督:トミー・リー・ジョーンズ
出演:ヒラリー・スワンク トミー・リー・ジョーンズ 

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