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映画 チョコレート(2001米) [日記 (2020)]

チョコレート [DVD]  原題”Monster's Ball”、怪物たちの舞踏会。舞台は(たぶん)南部。黒人嫌いの祖父、息子、孫の3世代のレイシズム(人種主義)に、息子と黒人女性のラブストーリーを対置し、中年男のレイシズム克服の物語です、たぶん。ここで言うレイシズムとは、人種主義、人種差別だけではなく、誰もが持っている個人の独断と偏見によって他人を裁く「狷介さ」のことです、たぶん。 この映画は人種差別をあからさまには描きませんが、今風に言えば「分断」を告発した映画です。  

看守ハンク
 州刑務所の看守ハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)は、父親バック(ピーター・ボイル)、息子ソニー(ヒース・レジャー)と三代にわたり看守を職業とする家族。ハンクの母親は自殺、妻は家出、女性のいない男だけの3人暮らし。冒頭、バックが孫のソニーを訪ねてきた黒人を追い出せとハンクに命じ、ハンクが銃で脅すシーンがあります。バックのレイシズムが支配する家で、女たちの一人は自殺し、ひとりは家を出たものと思われます。人間を優等人種、劣等人種によって色分けするバックのレイシズムは、黒人差別にとどまらず、人間を優等と劣等の偏見で捉え、ハンクの家族を崩壊させたのでしょう。バックのレイシズムがハンクから母親と妻を奪い、ソニーから母親を奪ったわけです。

 黒人死刑囚を電気椅子で処刑し(この黒人死刑囚の妻が後に出会うレティシア)、その処刑でソニーがミスを犯します。ハンクは処刑という神聖な儀式を汚したとソニーを責め、母親に似て役立たずだと罵ります。これはバックの視線です。ソニーは、ハンクは自分を嫌っているが、自分を嫌う父親を俺は愛していたんだと言い、唐突に自殺します。ソニーは祖父から遺伝したハンクのレイシズム、自分から母親を奪ったレイシズムを拒否し、そのレイシズムの呪縛から逃れるように自殺したのです。ソニーの葬儀で、バックは「(ソニーは)弱いヤツだった」と呟きます。
 ここで描かれるのは、祖父、息子、孫の三代にわたるレイシズムの負の遺伝です。

死刑囚の妻レティシア
 レティシア(ハル・ベリー)は、夫を死刑囚として亡くし、レストランのウェイトレスをして幼い息子を育てています。息子は、父親のいない喪失感を埋めるかのようにチョコレートバーを貪る肥満児。遅刻ばかりしているレティシアはクビ寸前、家賃が滞って立ち退きを迫られているという絵に書いたような貧困と不幸を背負っています。

ハンクとレティシア
 レティシアのレストランにハンクが通い、黒人を処刑した看守と夫を死刑された妻が出会います。ハンクが決まって注文するのが、チョコレートアイスクリーム。レティシアの息子が食べるチョコレートバー同様、甘いチョコレートアイスクリームはハンクの心の空白を埋めるのでしょう。
 レティシアの息子が轢き逃げされ、通りかかったハンクが病院に運びます。息子は死に、この事件でふたりは急速に近づき、孤独な魂が引かれ合うように情事に身を任せることになります。あるいは、黒人のレティシアを愛することで、自分に流れるレイシズムの遺伝子を消したかったのかも知れません。
 ハンクは、レティシアが自らが処刑した死刑囚の妻だったことを知りますが、レティシアはハンクが夫の処刑人であることは知りません。彼女が知った時、二人の恋はどうなるのか?というのが後半のテーマ。

 レティシアがハンクの家を訪れ、ふたりの仲を知った父親はレティシア言います、「わしも若い頃は黒人の女を抱いていた、ハンクも同じだ、クロとヤッてこそ男だ」。レティシアは絶望して帰ります。事情を察したハンクに父親は、「わしらは家族だ、父親のことを忘れるな」と言います。ハンクの反撃が始まり、父親を老人ホームに入れます。施設でのハンクと父親の会話です、

ついに、わしを捨てるのか
廊下には電話もある
お別れか、逃げ場がない
俺もだ
こんな死にかたはイヤだ
同感だね、さよなら父さん

 ハンクは父親を捨てレティシアを選ぶことで、レイシズムを克服したわけです。ハンクと父親バックのこの短い会話は、映画のハイライトです、たぶん。

 ハンクは、レティシアを自宅に迎い入れます。レティシアは夫を処刑した元看守を愛してしまった事実を知りますが、この数奇な事実を受け入れます。ふたりは庭で並んでチョコレートアイスクリームを食べ、その庭には3基の墓が並んでいます。自殺した母親、たぶん家出した妻、そして息子ソニーの墓だと思われます。「俺たちはきっとうまくゆく」というハンクの呟きは、「怪物たちの舞踏会(Monster's Ball)」の終焉を意味しているのでしょう。

 この映画で、ハル・ベリーはオスカーの主演女優賞を獲得していますが、映画のテーマに合わせたハリウッドのリベラリズムでしょう。個人的にはビリー・ボブ・ソーントンに一票、南部レイシズムの権化を演じたピーター・ボイルにも一票。
 監督のマーク・フォースターには『主人公は僕だった(2006)』という佳品があります、こちらもオススメです。

監督:マーク・フォースター
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、ハル・ベリー、ヒース・レジャー、ピーター・ボイル

タグ:映画
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