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フローベール ボヴァリー夫人 第一部 (2015新潮文庫) [日記 (2020)]

ボヴァリー夫人 (新潮文庫)  先日『ボヴァリー夫人とパン屋』という映画を見て面白かったので、原作ではありませんが、フローベールの『ボヴァリー夫人』を読んでみました。こういうことでもないと、19世紀のフランス文学を読むことはまずありません(笑。これがけっこう面白い...。不倫文学の金字塔?です。発表されるや風紀紊乱で裁判 →評判を呼んでベストセラーとなったそうです。同時代のスタンダール『赤と黒』にも不倫があり、ロシアには『アンナ・カレーリナ』がますから、19世紀では人気のある題材だったのでしょうか。て言うか、不倫は時代を超えて永遠の「何か」でしょうね、だから『ボヴァリー夫人』が古典となったわけです。

 第一部では、後のボヴァリー夫人=エンマとシャルルの出会いと結婚、結婚生活に幻滅するエンマが描かれます。この後、不倫と借金と自殺があるわけですから、序曲みたいなものです。

 シャルルは、医者の息子ですから何の疑問もなく医者になり、開業して財産目当てに目当て45歳の未亡人と結婚させられます。どちらかと言うと流さられるタイプ。何歳頃かはっきりしませんが、たぶん10歳程は歳が離れいるはず。この妻が亡くなり、エンマの父親を診察たことで知り合うわけです。

 一方のエンマは裕福な農場主のひとり娘で、母親は早くに亡くなった父子家庭。修道院の寄宿学校で学び、文学の素養がありピアノまで弾ける深窓の令嬢?。この修道院の寄宿学校で、人生にロマンチックな夢を植え付けられます。実家に戻って田舎の生活に退屈している時にシャルルと出会い結婚に至るわけですが、人の交流の少なかった19世紀のノルマンディーですから、男女の出会いというのはこういうものなんでしょう。エンマがこの結婚をどう考えていたかというと、自ら婚礼準備のため肌着やナイトキャップを縫い、松明の灯りの下で式えを挙げたいと言う記述ありますから、彼女なりにこの結婚に夢を、修道院の寄宿学校で育んだ夢を託していたことがうかがえます。
 妻に死なれた平凡な中年男と、小説を読みピアノを弾く若い女の結婚です。フローベールは、後に破滅に至るエンマに、にこうした背景を用意します。

彼女は結婚するまで、自分が恋をしていのるものと信じ切っていたが、その恋から生じたはずの歓びが訪れてこないので、自分が思い違いをしたのに違いない、と思った。そしてエンマは、本のなかで読むとあんなにも美しく思われた至福とか情熱とか陶酔といった言葉が人生ではじつのところ何を意味しているのか、知ろうと努めた。

 医者シャルルと結婚した若いエンマは、こんな筈ではなかったと考えます。エンマは、人生に、若い女性らしい至福や情熱、陶酔を期待していたのですが、実際の生活にそんなものはもあるわけがありません。で、

「ああ、どうしてわたし、結婚なんかしてしまったんだろう?」

 となり、もし別の男性とめぐり会って結婚していたら、それこそ至福や情熱、陶酔の生活を送れたものを、シャルルとめぐり会ったばかりに、と悔やむわけです。

この自分の生活はまるで北向きの天窓しかない屋根裏部屋のように冷え切っていて、倦怠が音をたてないクモのように、この心のいたるところにある闇に巣をかけている。

 あり得たかもしれないもうひとつの人生を想像することは、誰にでもママあることでしょう。そうした思いは、普通、日常に取り込まれ諦めへと変わります。ところが、エンマは理想と現実のギャップを容易に埋めることができません。フローベールは、そういう人間を創造したわけです。

(現実のo生活の)彼方には、至福と情熱の広大な国が見渡す限り広がっていた。

もはや「彼岸」です。シャルルが男として劣っていたかというと、

彼は元気で、顔色もよく、世間の評判もすっかりできた。ふんぞりかえらないところが、田舎の連中に好まれた。子供たちを見ればかわいがり、居酒屋には一度も足を向けず、その品行方正ぶりが信頼を生んだのだ。・・・抜歯にかけては地獄の腕を持っていた。

医者としての評判もよく、若い妻との生活に満足しエンマを大事にしています。ところがエンマはというと、

夫にますます苛立つ自分を感じていた。夫は年をとるにつれ、品がなくなり、食後に空になったボトルの栓を切り刻んだり、食べ終わると舌で歯の付着物をこそげ落としたり、スープを飲むときに一口ごとにのどをクックッと鳴らし、肉が付いてきたせいか、前から小さかった日が、ふっくらした頬骨によってこめかみのほうにつり上がって見えた。

まるで絵に描いたようなすれ違い。19世紀ノルマンディーの田舎の夫婦の話ですが、現在でも十分あり得るわけです。

心の底ではしかし、彼女は事件を待ち望んでいた。彼女は難破した水夫のように、絶望した視線を、自分の孤独な生活の上にさまよわせ、霧にかすむ水平線のうちに何か白い帆でも見えないかとはるか彼方を探していた。どんな巡り合わせが、風の吹き方次第で自分のところまで運ばれ、どこの岸辺まで自分を連れて行ってくれるのか…。

 待ち望んでいた事件が起きます。ボヴァリー夫妻が伯爵の舞踏会に招待され、伯爵邸で上流階級の華やかな生活を垣間見、若い貴族との舞踏に酔いしれます。エンマは、パリの地図を買い込み、雑誌を購読して都会の華やかな生活を空想し田舎の生活の無慮を慰める日々が続きます。
 やがて理想と現実の陥穽から抜け出せずうつ病となり、シャルルは転地療法を兼ねて30キロ離れた村に引っ越します。おまけにエンマは妊娠という荷物まで背負い込みます。

②に続きます。

タグ:読書
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