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映画 危険なプロット(2012仏) [日記 (2020)]

危険なプロット(初回限定版)筒スリーブケース仕様 [DVD]  原題、”Dans la maison”、直訳すれば「家の中」?。それではアンマリだというわけで邦題は「危険なプロット」。『危険な情事』というのもありますが、なかなかの訳だと思います。個人的には、「フランス映画はこうでなくては!」という傑作?。
 ストーリーはなんとも地味で、高校の国語教師が生徒に作文を書かせる話、ただそれだけ。そんなもの面白いわけがないのですが、思わずこれが引き込まれ最後まで見てしまいます。

 国語教師ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、週末の出来事を作文に書いて提出しろ、と宿題を出します。提出されたものはどれも、今時の高校生は作文ひとつ書けないのか!と嘆くほど酷いものばかり。唯一、クロード(エルンスト・ウンハウアー)の書いた作文がシェルマンの目に止まります。「中流家庭」がどんなものか見てみたいという動機で(クロードは父子家庭)、数学を教えるという名目でラファ(バスティアン・ウゲット)の家に入り込み、一家の生活を作文にしたもの。ジェルマンは若い頃小説家を目指して挫折した国語教師。クロードの中に才能を見つけたジェルマンは、個人指導を始めます。というか、作文の続きが読みたかったためです。クロードがの作文の一節、

 ある香りが僕をとらえた 実に独特な中産階級の女の香りだ
 香りに導かれ リビングへ
 そこには ソファに座り内装の雑誌をめくる その家の主婦
 ラファの母親の姿があった

このフレーズに、下世話な覗き見趣味を刺激されたためとも言えます。

 ジェルマンの指導でクロードは毎週続編を書いてきます。ジェルマンと共に興味津々で読むのが妻のジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)。ジャンヌは現代アートの画廊に勤めています。ジェルマンがクロードを指導する文学が、ラ・フォンテーヌやフローベールで古典派、妻のジャンヌは現代アートですから、この夫婦は趣味が合ってません。このズレた夫婦の会話も映画の見どころです。ジャンヌが勤める画廊の名が「ミノタウロスの迷宮」。画廊オーナーを演じるのがヨランド・モロー、ちょい役で出演ですが。 クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、このヨランド・モローと、なかなか凝った配役です。
 クロードが迷い込んだラファの家こそ「ミノタウロスの迷宮」だったかも知れません。

 この中流家庭が特別かというと、ラファと両親の3人家族でごく普通の家庭。父親はバスケットボールに夢中で、妻のエステル(エマニュエル・セニエ)に仕事の愚痴を語る普通のオヤジ。エステルは建築家を志し?、今では部屋の改装が趣味。ジェルマンとジャンヌ、ラファの父親とエステル、すれ違いというほどでは無いにしろ夫に不満を持つ妻というところでしょうか。

 次の作文が提出され、そこにも

 薄い服から ”中産階級の曲線が見えた

 嗅覚→視覚と来ます。「中流家庭がどんなものか見てみたい」というクロードの関心は、エステルに移っています。最初からエステルが目的ではなかったのか?。こうなると、ジュリアン・ソレルとルナール夫人(『赤と黒』)、レオンとボヴァリー夫人(『ボヴァリー夫人』)のフランス文学お得意の「不倫」かと考えてしまいます。ジェルマンの期待は「不倫小説」にあったわけです。クロードは勉強にことよせて頻繁にラファの家を訪れ、ラファの留守を狙ってエステルに近づき…。『危険なプロット』が面白いのは、高校生と人妻の『危険なプロット』を語っているのはクロードであり、「信頼できない語り手」クロードの夢想、創作だとも言えます。ラファと両親の3人の団らんに、影のようにクロードが割り込む映像は、それを物語っています。

 クロードは、次の数学の試験でラファがいい点数が取れないと、家庭教師をお払い箱となりもう作文は続けられないとジャンルに打ち明けます。クロードの「小説」の続きをどうしても読みたいジェルマンは、数学の試験問題を盗みクロードに渡し、小説は無事継続されます。つまり、ジェルマンは小説の読者から、小説の「登場人物」となり、クロードの創る虚構がジェルマンの現実を犯し始めたわけです。この試験問題を盗む行為が映画の転換点であり、『危険なプロット』です。
 そして、小説の舞台(”Dans la maison”)がラファの家からジェルマンの家に移り、小説にジャンヌが登場してクロードのヒロインはエステルからジャンヌに移ります。ボヴァリー氏が『ボヴァリー夫人』を読むという何とも皮肉な構図です。

 ラストで、ジェルマンとクロードはずらりと並んだアパートの窓を眺めます。ひとつひとつの窓にはそれぞれのla maisonがあり、C'est la vie(これが人生さ)ということになります。
 ちょっと『ボヴァリー夫人とパン屋』に似ていなくも無いです。アメリカ映画に飽きたら、こういう映画も新鮮です、フランスではヒットしたらしいです、オススメ。

監督:フランソワ・オゾン
出演:ファブリス・ルキーニ、エルンスト・ウンハウアー、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ

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