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映画 欲望という名の電車(1951米) [日記 (2021)]

欲望という名の電車 [DVD]  原題、”A Streetcar Named Desire”。テネシー・ウィリアムズの同名戯曲の映画版です。
 南部の田舎からニューオリンズに住む妹を訪ねた姉が、妹の家に居候するという話です。戯曲ですから、舞台はほぼ妹の住む安アパートの二間。登場人物も、この姉妹に妹の夫の3人というシンプルなもの。シンプルな構成が映画、ドラマとして成り立つのは、この3人の背景と言動ということになります。「会話」によって登場人物の背景や存在が表現され、それがこの映画の魅力となっています。

ブランチ(ヴィヴィアン・リー) 
 南部の農園の娘で高校教師。家族の病気療養で財産を使い果たし、父親が亡くなって財産を処分、ニューオリンズに住む妹ステラのアパートに身を寄せます。高校の英語教師と言いますから一応教養のある女性。ブランチは若くして結婚し、夫は自殺して現在は独り身。ブランチが夫を自殺に追い込んだようなセリフがあります。休暇を取って妹に会いに来たと言っていますが、実は地元に居れない事情があり、ニューオリンズに逃げて来たことが後に明かされます。年増の寡婦が行く当て無く妹を頼ったという構図です。
 不安と後ろめたさを隠すように言葉を連発し、やや情緒不安定気味。

ステラ(キム・ハンター)
 ブランチの妹。ブランチは、アンタは早くに家を出ているから私の苦労は知らない、と妹を詰め寄っていますから、ステラは家を嫌って田舎から家出し、ニューオリンズでスタンリーと出会って結婚した模様。現在妊娠中。

スタンリー・コワルスキー(マーロン・ブランド)
 ステラの夫。ポーランド移民の息子で工場労働者。傍若無人で酒とポーカーに目がない。ブランチが農園を売ったことを知り、ステラの相続分を要求する。

 ブランチ、ステラ、スタンリーの関係を見ると、伝統的な南部の家族が壊れて人々は都会に流れ、ステラとポーランド系アメリカ人のスタンリーが結婚したように、人種や階級を超えて人々が混交する時代であることが分かります。

 映画の幕開けで、列車がニューオリンズの駅に到着、列車から降りたブランチは、妹を訪ねるために

「欲望」という名の電車に乗って「墓場」という駅で乗り換えて「極楽」という駅で降りる

わけです。「欲望という名の電車」に乗るというタイトルは時代の風潮を表しているのでしょう。ニューオリンズには「欲望通り」”Desire Street”が実際に存在し、”Desire”と表示された路面電車が走っていたそうです。欲望というのは、「資本主義」の象徴かも知れません。

 ブランチとステラはボーリング場で再会し、ステラは、「喧嘩をしているあの人が夫」のスタンレーだとブランチに伝えます。ブランチは妹の夫が殴り合いの喧嘩をするような階級であること知り、その動揺を隠すように、喉が渇いたと言ってドリンクコーナーで(ステラが勧めるソーダ水を断って)スコッチを2杯。若い女性が昼間からスコッチ2杯ですから、後に正体を顕にするブランチという女性の伏線です。

 ステラのアパートに着くと、ブランチは”私の寝室は何処?”と問います。二間のアパートにブランチの寝室があるはずもなく、彼女は折りたたみベッドで寝ることになります。「社交のためドレスを持ってきた」→「ここでは着飾る必要はない」とステラに言われ、 ブランチは南部との落差を思い知らされます。
 ブランチの過去が明らかになります。父母と姉妹を病気と死で財産を使い果たし、農園ベル・リーブを失ったことをステラに告げます。驚くステラにブランチは言います、

すべての重荷を背負わされた、病気と死は金がかかる、教師は安月収
出ていったアンタに責められたくはない

と。会話のバックに汽車の通過音が流れますから、近代という時代の波が伝統的な南部の生活を破壊したということでしょう。妹はその南部の重圧から逃れ、家を護ろうとした長女は護りきれず破綻したわけです。

 ボーリングと喧嘩からスタンレーが帰宅します。暑いと言ってTシャツを脱ぐと、ポーランド移民の筋骨隆々たる工場労働者の体躯が顕れます。

暑いと酒が進む、アンタも飲むか?(スタンレー)
お酒は飲まないの(ブランチ、精一杯の見栄です)
そういう奴は影で飲むんだ(ブランチの見栄は見透かされています)
昔、結婚してたって?
その少年は死んだの(少年 →ブランチの夫の死が自殺であったことの伏線です)

 スタンレーは、ステラを間に挟んでブランチと対極にある存在です。南部の伝統を捨てられないブランチは、このスタンレーという存在、雑駁で暴力的な存在に飲み込まれて壊れ、最後にはスタンレーに犯され、精神病院に収容されます。産業化、都市化に圧倒される南部の「斜陽」の物語とも言えます。

 ヴィヴィアン・リーが主演ということもあって『風と共に去りぬ』を連想します。

監督:エリア・カザン
脚本:テネシー・ウィリアムズ
出演:ヴィヴィアン・リー、マーロン・ブランド、キム・ハンター

タグ:映画
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