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映画 熱いトタン屋根の猫(1958米) [日記 (2021)]

熱いトタン屋根の猫 [DVD]  原題、Cat on a Hot Tin Roof。テネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化です。『欲望という名の電車』では、タイトルの謂れは「欲望」という名の電車に乗って「墓場」という駅で乗り換えて「極楽」という駅で降りるというセリフです。この映画でも、マギー(エリザベス・テイラー)は、夫から愛されない不満を「熱いトタン屋根の猫の気分」だと言います。夫のブリック(ポール・ニューマン)は、「屋根から下りろ、猫ならケガをしないジャンプをしろ」と返し「どこへ?何に向かって?」と問うマギーに「男を作れ」と言います。
 ブリックはマギーのキスを逃れ、マギーの口をつけたグラスでは酒を飲みません。嫌われても、マギーは未だブリックを愛しているようで、この奇妙な夫婦関係がどうなるのか?、ブリックは何故これほどにマギーを嫌っているのか?、という興味で観客を引っ張っていきます。

 原作がテネシー・ウィリアムズですから舞台は南部。一代で財を築きビッグダディと呼ばれる父親(バール・アイヴス)の誕生日に、家族が集まります。単なる誕生祝いではなく、目当ては末期癌で余命いくばくもない父親の遺産相続。長男グーパーは、弟ブリックをアル中で施設に入れ財産の独り占めを目論み、ブリックの妻マギーはこれを阻止しようと夫の尻を叩き、肝心のブリックは財産に興味を示さず酒に溺れる始末。

 ブリックがマギーを嫌い酒に逃げる理由が明らかにされます。ブリックが入院中に、マギーがブリックの友人を誘惑して自殺に追い込んだためです。映画ではボカされていますが、ブリックと友人はどうやら同性愛の関係。マギーは、ブリックを同性愛の友人から夫を取り戻すために会いに行った、断じて関係は持っていないと言い張ります。当時もマギーは「熱いトタン屋根の猫」だったわけです。ブリックは、妻の不貞と同性愛の罪悪感から逃げるために酒に走ったわけです。
 『欲望という名の電車』でも、ブランチの夫は同性愛が原因で自殺し、彼女自身は「熱いトタン屋根の猫」となっています。同性愛の夫を持った妻、自殺による贖罪は、テネシー・ウィリアムズにとって重要なテーマのようです(『電車』と『猫』でピューリツァー賞を受賞していますから面白い)。

 マギーとブリックが行きつく所まで行くのかというと、実はそうはならない。ブリックが不用意に父親に末期癌を告げてしまい、今度は死期を悟った父親が前面に顕れます。父親は「ビッグ・ダディ」と呼ばれるように、一代で農園を築き、綿花栽培だけではなく綿織物にまで進出する気概、女性への欲望を顕にしますからアメリカの強い父親の象徴です。余命幾ばくもないことを知った父親はブリックを立ち直らせようとします。古いトランクを示し、祖父の遺品は古いトランクとその中に入っていた米西戦争の軍服だけだったこと、祖父と父親は家が無く貨車で暮らしていたこと、オレはそこから這い上がって30エーカーの土地と1000万ドルの財産を作った、その「帝国」をお前に譲るとブリックを鼓舞します。祖父は貧しかったが父親に愛情を持って接した思い出が語られます。ブリックは、財産が欲しいと思ったことは一度もない、欲しかったのは父親の愛情だ、アンタは妻も家族も愛してなかったと詰ります。まるで、強い父性を求めて同性愛に走ったというブリックの言い訳のようにも聞こえます。
 父親は、父親の愛情を受けて育ったにも関わらず家族を愛さなかったことを悟り、息子は同性愛と酒に走ったことを後悔し、ブリックと父親は和解します。

 マギーは、もうひとつ誕生日プレゼントがあると、自身が妊ったことを父親に告げます。ブリックがマギーを嫌っていますからそれはあり得ない、事実嘘です。ブリックは、妊娠は嘘だと言う兄嫁からマギーを護り、ふたりの仲は修復されます。映画としては上手いオチですが、原作はどうだったのか気になります。

 『欲望という名の電車』では、資本主義が伝統的な南部を壊す現実が描かれ、『熱いトタン屋根の猫』では、南部の伝統的な家父長制とそれに抗う息子が描かれます。『電車』と『猫』のどちらが好きかと言えば、マーロン・ブランドの『電車』に一票。

監督:リチャード・ブルックス
原作:テネシー・ウィリアムズ
出演:エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン、バール・アイヴス

タグ:映画
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Lee

テネシー・ウィリアムズは高校の演劇部で「ガラスの動物園」を演出したことがあります。大人しい姉を案じる弟の話でした。「欲望~電車」「熱い~猫」はややハード(というか何となくドロドロ?)に感じて観てなかったのですが記事を読んでぜひと思いました。(いつもながらありがとうございます)
by Lee (2021-01-29 11:29) 

べっちゃん

戯曲というのは殆ど読んだことがありません。戯曲を劇にするのは、解釈みたいなことが必要でこれが演出ということなんでしょうね。
by べっちゃん (2021-01-29 19:27) 

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