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浅田次郎 流人道中記 ① (2020中央公論新社) [日記 (2021)]

流人道中記(上) (単行本) 流人道中記(下) (単行本)  万延元年、南町奉行所与力が罪人を江戸から奥州街道を津軽三厩まで護送する話です。
 罪人の旗本・青山玄蕃は、不義密通の罪で切腹を言い渡されますが”腹を切るのは痛いから嫌だ”と拒否。3千石の旗本を斬首もできず、闕所改易の末、蝦夷・松前藩に永年御預けの流罪となります。一方の与力は、若干19歳の石川乙次郎。乙次郎は、御家人の最下層、三十俵二人扶持の同心の次男坊で、半年前に2百石の石川家に入婿した見習い同心。江戸時代の身分制でいけば、2百石の19歳の見習い与力(御家人)が3千石の旗本を護送するわけです。唐丸籠に押し込めたり腰縄を打って護送するわけではなく、旗本の体面を考えて大小の刀を差した玄蕃を乙次郎が後ろから付いて行くというもの。

 基本は、江戸から三厩までの「奥州街道膝栗毛」「弥次喜多道中」です。小説は、玄蕃と乙次郎の掛け合い、ふたりが宿場宿場で出会う人と事件、乙次郎が江戸の妻に宛てた手紙から成り立っています。物語を貫く主題は、玄蕃の犯した不義密通は如何なるものか?、玄蕃は何故切腹を拒否したのか?という謎です。最後に玄蕃が自ら謎解きをし、それがそのままこの小説のオチとなります。

 面白いのは、押出のきいた壮年の旗本と若い侍のコンビですから、行く先々で人は玄蕃を主、乙次郎を従者と見なします。罪人と護送人の関係が逆転して来ることです。宿場で出会う事件を玄蕃が解決し、玄蕃が乙次郎をリードする一種のビルドゥングスロマンとも言えます。登場人物も、旅籠のおかみ、関所の役人、按摩、盗賊、賞金稼ぎ、飯盛女、浪人、代官と浅田次郎の人情噺を彩ります。

 玄蕃と乙次郎は、行く先々で事件に巻き込まれます。事件といっても犯罪ではなく、旅籠で旅人の抱える人生模様に巻き込まれるわけです。
 賞金首の強盗と幼馴染みの飯盛女、賞金稼ぎの浪人の三に関わる芦野宿「稲妻小僧事件」、7年にわたって親の仇を探す武士に助太刀する大河原宿「仇討ち事件」、お伊勢詣りの貧しい寡婦を助ける有壁宿の「宿村送り事件」。玄蕃が事の真相を見抜き大岡裁きで事件を解決し、乙次郎は傍観者ないしは端役として事件に関わり「世間」を目の当たりにして成長してゆきます。3千石の御殿様が、なぜ下々の事情、人情の機微通じているのか?、この辺りも謎。 →続きます。

タグ:読書
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