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マーク・ラムザイヤー 芸娼妓契約 ~性産業における 「信じられるコミットメント(credible commitments)」~(1991) [日記 (2021)]

  曽野,裕夫//訳、北大法学論集, 44(3), 206-160(1993-10-25)所収の論考です。
 産経新聞が「世界に広まる『慰安婦=性奴隷』説を否定」と報じたことで、韓国のメディアは、この論文『太平洋戦争における性サービスの契約”Contracting for sex in the Pacific War”』について<大騒ぎ>しています。未だ発表されていないにもかかわらず、よほど癇に障ったのか、「ハーバード大学」が効いたのか、一斉に報じました。何しろ従軍慰安婦は韓国のマジノ線ですから。著者マーク・ラムザイヤー教授に対する筋違いな人身攻撃まで起こる始末。特に中央日報が熱心で、連日反ラムザイヤー教授の記事を掲載し、まるで世界中がこの論文を非難しているかのような記事ですが、殆どが韓国国内または国外の親韓団体の非難です。
 「なでしこアクション」という女性を中心とした市民団体の同サイト経由で、件のラムザイヤー教授の論文の元となったと思われる『芸娼妓契約 ~性産業における 「信じられるコミットメント」~(1991)』が読めます。

 当該論文は、将来の収入の前払いと引き換えに、娼婦が売春宿で数年間働くという「芸娼妓契約」を「ゲーム理論」によって分析した論考のようですが、風俗論として読んでも面白いです。

 例えば、
・1924 (大正13) 年に、日本には11,500の 許可を受けた売春宿があり、日本人口の350人に1人の割合で娼婦がいた。
・彼女らの平均年収は、部屋と食事が付いて、公娼が884円、芸者が575円、酌婦(多くの場合、売春を伴う仕事であった)が518円であり、女給(これも幾ばくかの売春を伴う仕事であった)が210円、その他の職業では130円であった。
・前払金は(地主と小作農を合わせた)総農家の平均収入の53%に及んだ。
・売春宿は客の払う玉代の67~75%を取り、残りの25~33%が娼婦の収入となり、その額の60%を債務の元本に充当した。公娼は元本を返済するか、最長年期を働くことのいずれかによって契約を終了できた。平均的な公娼は3.03年で元金を完済した。

などなど資料に基づいて公娼制度が詳述されます。
表1.jpg 表2.jpg

 面白いのは、この前払金を払って娼婦を雇う「芸娼妓契約」は、抱え主が娼婦に投資した「信用供与」だということです。ここで「ゲーム理論」が登場します。
表A.jpg
売春宿が娼婦に対して、自分は協力するということを信じさせること(=信じられるコミットメント(credible commitment)の獲得)ができれば、右上(20,-10) または右下(10,10) のセルの戦略が選択されることになる。

売春宿が娼婦を搾取していたという「俗説」が否定され、売春宿と娼婦が協力関係を結びwin winの関係を築いていた(かもしれない)ということです。

今日にいたるまで、この産業の歴史は、改革主義者のジャーナリスト、廃娼論者、それらの廃娼論者によって救い出された元娼婦らの、実体験に基づく説明に依拠してきた。廃娼論者らに接近した娼婦は最も不満を抱いていた娼婦たちであり、大過なく芸娼妓奉公の年期を終えた女性たちは、その経験について著書や記事、そして日記さえもほとんど書いていないのである。そのために、現存する実態描写は、標本摘出に大きな偏りがあるという問題を抱えている。

 『太平洋戦争における性サービスの契約”Contracting for sex in the Pacific War”』がこの論理の延長線上にあるとすれば、韓国のメディアが熱くなるのも分かりますw。

タグ:読書
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