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映画 天命の城(2017韓) [日記 (2021)]

天命の城 [DVD]  1636年、清が朝鮮に侵攻した「丙子の乱」を描いた歴史ドラマです。

 朝鮮という国はその地政学上、古くから北方からはツングース、漢民族など南からは「倭」の侵攻を受けています。好太王碑には、4世紀末に倭が吉林省まで攻め込んだことが記されています(白村江の戦いや秀吉の侵攻も)。
 考古学上最初の朝鮮国家といわれる衛氏朝鮮(檀君朝鮮は神話)は建国も滅亡も漢民族で、前漢は楽浪郡等を置いて朝鮮を支配し、以来朝鮮は中国王朝に朝貢しています。下関条約(日清戦争)で朝鮮が独立するまで朝鮮は中国王朝の属国だったわけです。中国の他、モンゴルの支配、満州族の支配を受けています。朝鮮は漢民族から多くの文化を受け継いでいますから、漢民族に従うのは抵抗がありませんが(小中華思想)、夷狄と貶んでいる女真族の清に支配されるわけですからこれは屈辱だったと思います。

 朝鮮は、儒教に基づく「事大主義」を国家の基本理念とし、中国王朝に柵封を受けて安全保障としてきたわけです。女真族の清が漢民族の明を倒し「オレに従え」と朝貢を強いてきたのですから、朝鮮のアイデンティは根本から危うくなります。「ウチの親分は明だ、愛新覚羅には従えない!」と清に反旗を翻したのが1636年の「丙子の乱」です。これ、米中の間で綱渡り外交をやっている現在の韓国の状況に似ていなくもない。そんなわけで『天命の城』を観てみました。

 清は鴨緑江を渡って京城(ソウル)に向かい王・仁祖は南漢山城に逃げて清と対峙します。兵は城内の農民を入れて12,000、対する清は10万。時は冬で、兵は凍え食料は底をつく状況。吏曹大臣の崔鳴吉(イ・ビョンホン)は李朝存続のために清に降伏し清の柵封を受けるべきだと主張し、礼曹大臣の金尚憲(キム・ユンソク)は明を宗主国として清と戦うべきだと主張します。金は清につけば朝鮮の「礼節」滅びると主張し、崔は李朝が滅んで何の礼節かと言うわけです。
 紆余曲折があって、(命の惜しい)王・仁祖は清の軍門に下り朝鮮は清の属国となります。現実論が礼節に勝ったわけです。

 京城に帰り、和議の式に臨む仁祖に清の命令が伝えられます。朝鮮の王は、1)罪人だから(京城の)南門は通れない、王は西門から出よ、2)行列に護衛兵を伴ってはならない、3)王の衣を脱ぎ臣下の着物に着替えよ、4)壇の下で大清帝国の皇帝陛下に「三跪九叩頭」の礼をとれ、と。
 実際の講和条約「丁丑約条」はさらに厳しい内容で、王の長子と次男、および大臣の子女を人質を送ること、清国が明を征服する時には援軍を派遣すること、城郭の増築や修理については、清国に事前に承諾を得ること、清国に対して黄金100両・白銀1000両と20余種の物品を毎年上納すること(貢女も)、などが謳われます。条約を忘れないように満州語・モンゴル語・漢語で刻ませ記した「大清皇帝功徳碑」を建てます。朝鮮にとっては「恥辱碑」で、ソウルには今も建っているそうです(撤去されたかな?)。

 「大清皇帝功徳碑」が韓国で「恥辱碑」と言われるなら、『天命の城』は「国辱映画」なのか?。面白いのは、主役は恥辱碑」の元となった崔鳴吉ということです。
 尚憲は清の属国となった恥辱に耐えきれず自刃し(史実では清の人質となったらしい)、崔鳴吉は清の皇帝に三跪九叩頭する王・仁祖の横で悔し涙を流します(この功績で李朝の総理大臣になったらしい)。このシーンを韓国の人々はどんな思いで観たのか?。『天命の城』は、大国に隷属しなければ生きてゆけない朝鮮の宿命を描いたのか、大国の狭間で(あるかどうかは別にして)第三の道を模索すべきだったと言いたいのか、なかなか微妙です。よく言えば、国際政治で舵取りを間違うと亡国の運命が待っていると警鐘を鳴らす映画なんでしょう。
 金融危機からIMF管理に陥った韓国を描いた『国家が破産する日』(2018)も、安易な金融政策とバブルに走る国民に警鐘を鳴らす映画でした。2017、18年にこのような映画が作られヒットしたということは、韓国がそうした危機を抱えているということなのか?。この2本は、安易なイデオロギーを排し、丙子の乱や金融危機を史実として冷静に評価分析しているといってもいいでしょう。文在寅サンにも是非観ていただきたいw。
 以下斜めから見た感想です。この映画は「国辱映画」ではなく、むしろ韓国人のメタリティーに訴える映画です。韓国の国民性を表すに「恨」いう言葉が使われます。仁祖がむべき夷狄、清の皇帝に三跪九叩頭する姿に観客の「恨」は燃え上がったはずです。1910年、清に代わって現れたのは、これも夷狄である日本です。清の支配と日韓併合の屈辱(恨)が積りに積り、今日に至っているのでしょうね。清は滅んでいますから恨の矛先は日本に向かい反日は終わることはない、そう思ってしまう映画ですw。

監督:ファン・ドンヒョク
出演:イ・ビョンホン、キム・ユンソク、コ・ス、パク・ヒスン

タグ:映画
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ktm

貢女が20余種の上納物品扱いというのがスゴイですね。
韓国の歴史TV番組では出てこない事実ですね。
考えると、中国の辺境で苦労の多い国だったのが良く分かります。
ググったら、かの国では、貢女の事実は知らない方が多いらしいです。
下関条約 第一条 で清から独立できたのも知らないかもしれないですね。
by ktm (2021-08-09 13:26) 

べっちゃん

韓国の新聞にも記され、資料もあるようで貢女は史実のようです。李氏朝鮮だけではなく、高句麗、新羅の時代からあったと云うから驚きです。
by べっちゃん (2021-08-09 18:21) 

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