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鈴置高史 米韓同盟消滅 (2018新潮新書) [日記 (2021)]

米韓同盟消滅 (新潮新書)
 米軍がアフガンを見限って撤退し、タリバンが全土を掌握しました。アメリカの外交が中東 からインド大平洋地域へ移ったことを象徴する事件だと思われます。アメリカの撤退とともに中国はタリバンと手を結び、アフガンに影響力を及ぼそうと企てています。中国は、タリバンとウィグル自治区のイスラム教徒が手を結ぶことを恐れているのかも知れませんが。
 バイデン大統領は否定していますが、アメリカが同盟国を切り捨てることが朝鮮半島でも起こる可能性があります。韓国は「親中従北」の文在寅大統領ですから、在韓米軍の撤退もあり得るということです。文在寅政権が望むように駐韓米軍が韓国から撤退すれば、朝鮮半島はどうなるのか、日本の安全保障は?を考えるには参考になります。

 この本の目的は米韓同盟が消滅しかかっているとを日本人に知らせることにある。米国の後ろ盾を失えば、韓国は表向きは中立を唱えるだろうが、実質的には中国の勢力圏に入る可能性が高い。朝鮮半島は日清戦争以前の状態に戻り、百数十年ぶりに日本は大陸と直接向き合うことになる。

第1章   離婚する米韓
第2章  「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章   中二病にかかった韓国人
第4章  「妄想外交」は止まらない
 第1章では(本書執筆当時の)2018年当時の「同盟消滅」に向かう米韓の政治状況を分析し、第2章では歴代朝鮮王朝が中国に服従してきた歴史とそこから生まれた韓国人の歴史観・世界観を、第3章では現代の韓国の政治と外交を中学二年生レベルの幼児性「中二病」だとしたうえで、第4章「妄想外交」は止まらない、という本です。
 
 朝鮮半島は、台湾同様に日本にとって安全保障の要です。米韓同盟が消滅し、文在寅が望むように南北朝鮮が統一され(それは赤化、所謂レッドチーム入りと中国の属国化を意味する)、対馬海峡を挟んで中国勢力と対峙することなれば、百数十年ぶりに日本は「大陸と直接向き合う」ことになります。
 好太王碑に記された高句麗との戦い、白村江における唐との戦い、近世の日清、日露戦争を考えると、大陸勢力と結んだ半島勢力の伸張は日本にとって脅威です。モンゴル帝国と高麗による2度が侵攻(元寇)もありました。韓国の竹島実効支配、中国の尖閣諸島進出を考えれば、日本の安全保障は危機にさらされていると言えます。対馬海峡を挟んで中国+統一朝鮮と向かい合うと考えると、背筋が寒くなります。韓国には対馬は韓国領という考えがあり、李承晩は竹島と共に対馬の領有権を主張した実績があります。
 韓国と台湾は(いずれも旧植民地ですが)、安全保障上日本の同盟国である必要があります。本書は、その日米韓の同盟が危機にあるという警告の書です。
 
 米韓同盟消滅は、2018年6月のトランプ大と金正恩のシンガポール会談から始まったと言います。共同声明では、1)朝鮮半島の恒久的平和、2)朝鮮半島の完全な非核化、3)北朝鮮は「板門店宣言」を再確認し「挑戦半島の完全な非核化」に取り組む旨が謳われます。CVID(完全で検証可能、不可逆的な非核化)が確認されれば、在圏米軍の撤収もあり得るという内容だそうです。駐韓米軍の経費を削減したいトランプと、経済制裁を解除したい金正恩の思惑が一致した会談だったようです。続く2019年2月のハノイ、6月板門店の会談があったものの成果は無し。おまけに2020年には開城市の南北共同連絡事務所が爆破され、米韓同盟は消滅しかかり南北統一は遠ざかっているようにも見えます。
 
 2)の「朝鮮半島の完全な非核化」というのがミソで、これは北朝鮮が核を放棄することと、米の「核の傘公約(有事の際には米は韓国を核によって護るという)」の破棄がセットとなっていることです(在韓米軍は戦術核を持っていない保証はない?)。北朝鮮が非核化に応じれば在韓米軍は撤退するかも知れない。文大統領は朝鮮戦争の終結宣言(現在は休戦)を言いだしていますから、朝鮮戦争が終結すれば、米軍が韓国に駐留する名分は無くなります。アフガン撤退で、アメリカは自由を護る世界の警察であることを辞め、自国の国益に従うと宣言したわけですから。
 
1)の「朝鮮半島の恒久的平和」は、著者によると「非核化の見返りにトランプ大統領は北朝鮮の安全を保証する」という意味だそうです。そこから「朝鮮半島は誰の核の傘に入るのか?」という問いが生まれます(「完全な非核化」と矛盾するようにも思いますが)。
 
核の傘.png
 
著者は、「シナリオⅢに応じるフリをしながらどこまでシナリオⅣににじり寄れるか、北朝鮮は試し続けることになる」と結論づけます。米中がそれを許すかどうかですが、北朝鮮がICBMの開発を放棄し、在韓米軍が撤退すれば、あり得ると言うのです。南北統一が悲願の文在寅大統領とっては願ったりでしょう。韓国は北の核を積むためにSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の搭載可能な潜水艦を就航させ、軽空母、原潜の建造計画を進めています。その核はさしずめ日本に向けられることになるでしょう。
 
 GDPで日本の1/3の韓国の防衛予算が5兆2000億円で日本とほぼ同じ。防衛費1%枠を取っ払い、インド大平洋地域と朝鮮半島の安全保障に備えよ、本書にそこまで書いていませんが...。

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