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読書感想文 馳星周『少年と犬』 [日記 (2021)]

【第163回 直木賞受賞作】少年と犬 (文春e-book) 1.jpg

 毎年この頃には、夏休み宿題支援の「読書感想文」を書いています。中高生の頃に読書の習慣を付けると、生涯にわたって人生を豊かなものにしてくれるはずです。今回取りあげるのは馳星周『少年と犬』、2020年、163回直木賞受賞作です。犬と人間というテーマがはっきりしているので、感想文に書きやすいと思います。連作の主人公の犬がなぜ南を目指すのかというミステリー風で読みやすいです。本書のメイン『少年と犬』を中心とした感想文でこっちの続編です。

***ここから読書感想文***

 東日本大震災で飼い主を失ったシェパードの雑種犬「多聞」が、かつて結んだ少年との絆を頼りに、岩手県・釜石から南を目指す物語です。多聞とは、持国天、増長天、広目天と共に仏を護る四天王のひとり毘沙門天=多聞天です。仏を護るように人を護るという願いが込められたネーミングです。
 多聞が旅の途上で織り成す人との出会いを、『男と犬』『泥棒と犬』『夫婦と犬』『娼婦と犬』『老人と犬』『少年と犬』の6編の短編にまとめた連作集です。連作の主人公は「多聞」ですが、本当の主人公はやはり人です。

 タイトルの『少年と犬』は6話の短編集の最後に収録されています。釜石の漁師・内村は東日本大震災に会い、息子が震災のトラウマで口を効かなくなったため、つてを頼って熊本に移住しています。その内村の車の前に犬が現れます。犬の身体に埋め込まれたマイクロチップから、犬の名は多聞であり釜石で飼われていたこと、飼主は震災で亡くなったことが判明します。震災から5年が経ち、犬は何のためにどうやって釜石から熊本までやって来たのか?。
 内村はこの同郷という縁に惹かれ多聞を飼うことに決めます。獣医から引き取って家に連れ帰ると、震災のトラウマで「一言も口をきかず、笑わない。泣かない。怒らない」息子の光が多聞に激しく反応します。片時も犬を離さず一緒に寝る生活を送るうちに、光の顔に笑みが戻り、言葉を発するようになります。犬が閉ざされた光の扉を開いたのです。

 やがて光と多聞の関係が明らかになります。光と多聞は5年前に釜石で出会っていたのです。たまたま散歩で通りかかった子犬の多聞は、公園で遊ぶ3歳の光に駆け寄ったと言います。これを見ていた老人は、

なんて言うかなあ、あれはまるで、離ればなれだった恋人同士が、久しぶりに再会したって感じだった。ああいうこともあるんだなあって、後で話したもんだよ

翌日から、公園で遊ぶ光と多聞の姿が毎日のように見かけられたというのです。
 2011年3月11日、東日本大震災が起こり、多聞の飼い主は亡くなり、光は熊本に移住して一人と一匹の関係は絶たれます。飼い主と光を失った多聞は光を探す旅に出、5年の歳月をかけ、釜石から光の住む熊本へたどり着いたのです。
 2016年4月14、熊本を震度7の地震が襲い、多聞は崩れ落ちる壁から光を護り命を落とします。
 犬は2~4万年前に家畜となったそうです。言い換えれば人間と犬は数万年にわたって友情を育んできたわけです。光と多聞は、遠い昔に何処かで出会い強い絆を結び、一人と一匹は「転生」を繰り返して2011年に再会した、もちろん『少年と犬』はフィクションですが、ついそんな想像をしたくなります。

 父親は光に多聞の死を伝えます、

「多聞、いるんだ。ここに」光は自分の胸を指差した。
「あのね、あの時、ぼく、多聞の声が聞こえたんだ。だいじょうぶだよ、光、ぼくはずっと光と
一緒にいるからね、だから、なんにも心配することないんだよって」
「死んだからって多聞がいなくなったわけじゃないんだよ、お父さん」
光は、また何時か何処かで多聞と再会できること知っている、人と犬の数万年に及ぶ絆を語っていることになります。

 6編の連作短編集『少年と犬』は、実はここに至る物語です。釜石を出た多聞は、仙台(男と犬)、新潟(泥棒と犬)、富山(夫婦と犬)、滋賀(娼婦と犬)、島根(老人と犬)と、人との出会いを重ね日本列島を南下します。

 『男と犬』は、大震災で生活基盤を失い窃盗団の片棒をかつぐ男と「迷い犬」が出会います。犬は鼻先を絶えず南の方角に向けるため、男は「南には誰がいる?」と多聞に問いかけます。本書は、この「問い」が全6話を引っ張るミステリーでもあります。第1話で、多聞はの避難生活で認知症を患った男の母親のセラピー犬となり、男は、大震災で失った家族の幸せを取り戻します。多聞は行く先々で人に「癒し」をもたらします。第5話、島根で出会った末期癌で余命幾ばくもない老人は呟きます、

(犬は)人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物なのだ。
人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない。(老人と犬)

 そして第6話『少年と犬』で、「南には誰がいる?」という第1話の問いの答えが明かされるわけです。第1話~第5話は人の物語でしたが、第6話は犬の物語、多聞の物語となります。

 帰巣本能に導かれて犬が何百キロも旅をする事例は、実際にあるそうです。岩手で結んだ絆を頼りに、少年に会うため日本列島縦断の旅をする犬の物語は荒唐無稽ですが、犬と人間は数万年来の友達ですから、こんな話もあったのかも知れません。

これで1910文字、原稿用紙約5枚です。

読書感想文の書き方
『蟹工船』を材料とした書き方実践編
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山際淳司  『スローカーブを、もう一球』 [手(チョキ)]
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坂口安吾  『ラムネ氏のこと』 ・・・青空文庫利用
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タグ:読書
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