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映画 家に帰ろう(201スペイン・アルゼンチン) [日記 (2021)]

家へ帰ろう [DVD]
 原題”El último traje”=最後のスーツ。出だしが秀逸。アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、家族が集まった機会に一緒に写真を撮ろうと孫達を呼びます。ところが、そんな恥ずかしいことは嫌だ!と拒否し、iPhone買ってくれれば写真に入るという女の子が現れます。それはいくらするのだ、1000ドルよ、400ではどうだ、イヤ、500、600と競り上がり800ドルで手打ちとなります。1000ドル出すつもりだった、お前は200ドル損をしたと言うアブラハムに孫は、iPhoneは実は600ドル、200ドル儲けた!。孫にしてやられた爺さんのエピソードで、観客はたちまち映画の世界に...上手い!、おまけに伏線にもなってます。

 ブエノスアイレスに住む88歳の仕立屋アブラハムは、子供達から財産分与と老人ホームへの入所を迫られます。老い先短いことを悟ったアブラハムは、最後に仕立てたスーツをポーランドの友人届けることを決心します。基本、アブラハム老人がアルゼンチンからポーランドを目指すロードムービーで、何故ポーランドなのか?、これが映画のテーマです。

 アブラハムは一番早い飛行機でマドリッドを目指します。マドリッドからポーランドまで鉄道でフランス→ドイツ→ワルシャワと移動しようというわけです。88歳の爺さんのひとり旅ですから周りが放っておかず手を差しのべ、ロードムービーに人情が加わります。

マリア(アンヘラ・モリーナ)
 アブラハムが泊まったホテルの老女主人。老人同士で意気投合し、夜のマドリッドをほっつき歩き老春を楽しみます。ホテルに泥棒が入りアブラハムは有り金を盗まれます。これではポーランドへ行けない。ちょっとご都合主義ですが、マドリッドに娘のひとりが住んでいるのです。ところが、喧嘩別れしたので助力を頼めないというのです。喧嘩の原因は冒頭のエピソードと同じ。財産を分与するからひとつだけ頼みがある。一人づつ短い言葉で俺を愛する言葉を言え。で娘は言います、そんな恥ずかしいことは出来ない! →勘当だ出て行け!と喧嘩別れになったようです。孫といい娘といい、これはアブラハムの遺伝でしょうね。そんなつまらない事で娘を勘当し、異国で無一文となっても娘に頼らない痩せ我慢は。アブラハムはマリアに諭され娘と和解、お金を借り列車に乗ります。

イングリッド(ユリア・ベアホルト)
 パリで列車を乗り換えます。アブラハムは、「ドイツを通らずにポーランドに行きたい」「そんなことは無理!」と案内係とモメ、これを聞いていたイングリッドが手を差しのべます。アブラハムとイングリッドの共通語がイーディッシュ語(ユダヤ語)。アルゼンチン在住のユダヤ人がポーランドの旧友を訪ねる、しかもドイツの地には足を踏み入れたくない。これで映画の展開が読めます。イングリッドがドイツ人の人類学者だと名のると、アブラハムの顔がこわばります。ナチスのユダヤ人迫害とアブラハムと件の友人との関係が、回想として挟まれますから分かりやすいです。
 「ドイツの地を踏みたくない」というアブラハムの要望に、イングリッドは奇策を用いますが、観てのお楽しみ。

ゴーシャ(オルガ・ボウォンジ)
 アブラハムは列車の中で人事不省に陥り、看護師のゴーシャに助けられワルシャワで入院します。ゴーシャは、アブラハムの最終目的地、ワルシャワから100余kmにあるウッチ迄車で送ります。アブラハムは旧友に会えたのか?
 ナチスのユダヤ人迫害とユダヤ人をナチスから護ったポーランド人の友情の物語、それに老いを重ね、ロードムービーに仕立てた映画です。何のヒネリもない直球のストーリーがやや物足りないです。アブラハムは、娘や孫に愛情を強要します。これは、ポーランドからアルゼンチンに渡り、仕立ての腕一本で妻子を養い一家を支えたアブラハムの誇りなのでしょう(誰も褒めてくれない不満もあります)。ポーランドを発つ時に、助けてくれた友人から託された服の型紙で、それが彼の唯一の財産だったと思われますが、服を仕立て友人に届けることが、今こうして生きているという人生の確認だったわけです。父親やお爺ちゃんの人生を知らない娘と孫は、「そんな恥ずかしいことは出来ないと」言うわけですが、逆説的にそれはアブラハムの人生の証明でもあるわけです。
 マリアは奥さんの代わりとして、イングリッドは娘として、ゴーシャは孫としてアブラハムの旅を助けたと考えると、辻褄が合ってきます。原題は「最後のスーツ」、邦題の『家に帰ろう』の方がぴったりきます。

監督:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ

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