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映画 謀議(2001米英) [日記 (2021)]

謀議 [DVD]  原題、 Conspiracy=謀議。『ゲーム・オブ・スローンズ』のHOB製作のTV映画です。監督はフランク・ピアソン、出演はシェイクスピア俳優のケネス・ブラマー、コリン・ファース、スタンリー・トゥッチなど。テーマは、「ユダヤ人問題の最終的解決」を決定した1942年のヴァンゼー会議、議長は「金髪の野獣」ラインハルト・ハイドリヒ。登場人物はハイドリヒ以下15人だけ。15人が、ベルリン郊外の豪邸の一室で(舞台もここだけ)、ワインを飲み豪華な食事をしながら。数百万のユダヤ人抹殺を論議します。

 冒頭、会議に至るナチスの現況が説明されます。ナチスは、ユダヤ人問題をロシア(ソ連)に移住させて解決を目論んでいますが、ソ連の反撃に会い戦線は膠着、ユダヤ人問題を第三帝国内で処理する必要に迫られます。すでに大量虐殺はナチスの特別行動隊によってポーランドとソ連で始まっています。森の中で数百人単位で機銃掃射で殺すという方法で、この虐殺方法の難点は、死刑執行者の神経にストレスを与え、親衛隊保安部(SD)やゲシュタポなどゴリゴリのナチス部隊においてさえ、士気の低下を招くことにあったわけです。ヴァンゼー会議では、虐殺する兵士にストレスを与えず「効率的、経済的」に「処理」する方法が論議されます。当然、議長のハイドリヒはこの解決案を持っており、政府、党の高官の了解を得るというものに過ぎません。言わばセレモニーで、ハイドリヒが「ユダヤ人問題の最終的解決」を親衛隊、内務省、司法省、ポーランド総督府に命令を下す場でもあるわけです。
 その解決策は、「絶滅収容所」を作り、ユダヤ人を輸送してガス室で処理するというもの。実際600万人近いユダヤ人が殺されたわけですから、大プロジェクトです。スターリンが行ったとされるウクライナのホロドモールに比べると、はるかに組織的プロジェクトといえます。

 映画です。政府の高官、党(ナチス)の幹部、親衛隊の将官などが続々と屋敷に到着します。挨拶は例のナチス式敬礼「ハイル・ヒトラー!」。”yes sir”までハイル・ヒトラーですから、大の大人が本当にこんなことやってたんでしょうか、やってたんでしょうねぇ。最後に現れるのがハイドリヒ、自ら飛行機を操縦して登場します。ハイドリヒは、バイオリンとフェンシングの名手で飛行機の操縦まで出来たらしい(空軍予備役少佐)。ハイドリヒの「ハイル・ヒトラー」はなおざり、何しろ偉いんですから。
 内務省次官 ヴィルヘルム・シュトゥッカート(コリン・ファース)、ゲシュタポ局長ハインリヒ・ミュラーなど15人が登場しますが、何と言ってもピカイチは親衛隊中佐アドルフ・アイヒマン(スタンリー・トゥッチ)。アイヒマンはゲシュタポの中佐でミューラーの部下だと思うのですが、この会議では事務局の様な役割。後にヨーロッパ各地からユダヤ人をポーランドの収容所へ輸送する責任者となってその有能さを発揮しますが、映画でも有能な事務屋の片鱗を見せてくれます。

 「金髪の野獣」ハイドリヒとはいうと、(『ナチス第三の男』では)甲高い声、傲岸不遜、冷酷というイメージですが、ケネス・ブラマー演じるハイドリヒは、愛想のよさと強圧的な横柄さが同居する得体の知れない不気味な存在。この会議に出席した二人の人物がハイドリヒはユダヤ人だという噂話をします(そうした噂があったらしい)。一人は「本人に直接訊いてみればいいじゃないか」と答えて、そう言われた男は青ざめます。ハイドリヒに睨まれれば命の保証はありません。シュトゥッカート内務省次官、ヨーゼフ・ビューラーポーランド総督府次官などの官僚はこの計画を非人道的なものと認識していますが、保身のため法理論と占領政策へと逃げる始末。法律家のシュトゥッカートは、ニュルンベルク法を持ち出してユダヤ人の定義だなんだとハイドリヒに反論し会議は混乱します。ハイドリヒは、ユダヤ人問題はヒトラーから任された親衛隊の専管事項だ、従わないものは国家の敵だ、敵を始末するのは親衛隊だと「穏やかに」シュトゥッカートを脅しあげます。
 豪華な食事と上等なワインの饗宴、ユダヤ人抹殺がプロジェクトとして決定する落差がこの映画の真骨頂であり、親衛隊の持つ暴力と、暴力を背景とした怪物ハイドリヒを演じるケネス・ブラマーの演技が見どころで、オススメ。

監督:フランク・ピアソン
出演:ケネス・ブラマー、コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ

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