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吉田修一 続・横道世之介(2019中央公論新社) [日記 (2021)]

続 横道世之介続きです

一応大学は卒業したものの、一年留年したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、現在バイトとパチンコでどうにか食いつないでいる二十四歳。

 『横道世之介』で19歳だった世之介は24歳になっています。留年して名のある会社はすべて一次試験で落ちてしまい、やっと面接までこぎ着けた中堅菓子メーカーはギックリ腰で棒に振り、只今フリーター。学生時代の友人は就職して去り、世之介の人間関係はアルバイト先とパチンコ屋だけという寂しさ。唯一残っているのが、同じ留年組だった「コモロン」こと小諸大輔。世之介を置いて一流証券会社に就職したコモロン曰く、

会社で嫌なことがあっても、ふと世之介のこと思い出すと、なんかほっとするんだよ。無理しなくてもいいよなって。世之介みたいな奴でもちゃんと生きてけるんだもんなあって。

世之介は周りを癒やすというか、世之介と比較すればオレも未だマシと思わせる人物なんでしょう。当の世之介はこう自己評価します、

・・・俺は、マラソン大会とかで、 辛くて、いよいよ立ち止まって、レースから脱落したときに横を歩いてくれる奴なんですって。息が整うまで一緒に歩いてもらって、自分の息が整ったら、俺を置いて走っていく

「少しは言い返せよ、怒れよ」と思うんですが、『横道世之介』の面白さはこの人のよさ、ほぼこれに尽きます。

 続編も1993年の世之介の現在と2021年が交差します。登場人物は一新され、”コモロン”、シングルマザー桜子と3歳の息子の亮太、桜子の兄隼人、パチンコ屋で新台を取りあった浜本。コモロンは折角採用された証券会社で落ちこぼれ、世之介と場末居酒屋でクダを巻き、英語を話すと人格が豹変することから一念発起してアメリカに留学します。桜子は元ヤンキーでキャバクラ・ホステス、かつシングルマザー。ヒョンなことで世之介と知り合い、ふたりは付き合うことになります。女だてらに鮨職人を目指す浜本は、頭を五分刈にして銀座の鮨屋に就職します。残念ながら、子供が生まれ大学を辞めた親友・倉持、天然の「お嬢様」恋人・祥子は登場しません。

 桜子の実家は父親と兄が経営する自動車整備の町工場で、アルバイト先が潰れた世之介は、彼女の実家でアルバイトを始めることになります。桜子は、短編集『女たちは二度遊ぶ』の「殺したい女(2005)」が発展したヒロインです。世之介は桜子にプロポーズしますが、定職に就かない男が何言ってんだと断られる始末。
 続編の後半は、世之介、桜子を軸に、桜子の息子亮太、父親、兄の勇斗(元ヤンキー)にコモロン、浜本が加わり、下町の町工場を舞台にドラマが展開します。

 世之介は定職もなく彼女の親元でアルバイト。世之介の両親は、何のために東京の大学にやったのかと嘆き、隣近所に肩身が狭い。読者の方も、「オイ、いい加減にシッカリしろヨ」と言いたくなります。コモロンは、

世之介ってさ、いつ見ても0(ゼロ)だからさ、だから、世之介のこと見てると、なんか、『まだ、ここからいくらでもスタートできるな』って思えんの

 前作との唯一の繋がりが”ライカ”。このライカで撮した世之介の写真が、小さな公募展で佳作に入選します。審査員は、

君の写真の何がいいか、君、自分で分かる?
何がいいか、ですか? いや、ちょっと自分では……
君の写真はね、善良なんだよ、善良
 善良?

 これが縁で世之介は審査員の助手となり、カメラマンの道を歩みだ出します。世之介のこの「善良さ」は、ホームから線路に落ちた男を救い電車に轢かれ、40歳で命を落とすことで完結するわけです。

タグ:読書
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