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紫式部日記 ① 藤原道長 (2009角川文庫)) [日記 (2022)]

紫式部日記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)道長相関図.jpg訂正→道長の父親は兼家


 源氏物語の失われた帖をめぐるミステリ『輝く日の宮』、皇族との恋の顛末を記した『和泉式部日記』が面白かったので、『紫式部日記』を読んでみました。紫式部は、藤原道長の娘、中宮・彰子の女房として、道長の援助を受けて源氏を書きます。『日記』には源氏の成立過程と、道長との関係が書かれているはず、興味はその辺りです。以下、青文字は原文ですから、読み跳ばしてください。和歌は意味があるかも。

中宮・彰子
秋のけはひ入り立つままに、土御門殿のありさま、いはむかたなくをかし。池のわたりの梢ども、遣水のほとりの草むら、おのがじし色づきわたりつつ、おほかたの空も艶なるにもてはやされて、不断の御読経の声々、あはれまさりけり。やうやう涼しき風のけはひに、例の絶えせぬ水のおとなひ、夜もすがら聞きまがはさる。

 中宮彰子が出産のため実家(土御門殿)に帰り、中宮付きの紫式部も同道します。『日記』は、寛弘5年(1008)秋、道長の邸から始まります。庭木が紅葉し秋の気配が色濃くなった邸に、安産祈願の読経が流れます。出産間近の辛さを隠して凛としている彰子を見るにつけ、式部は、

憂世の慰めには、かかる御前をこそ尋ね参るべかりけれと、現し心をばひきたがへ、たとしへなくよろづ忘らるるも、かつはあやし。

 彰子に仕えていると、憂世の慰めになり沈みがちな心が勇気づけられる、というのです。単に「憂世」と書いてみただけなのか、実際に憂世だったのか?。紫式部は、父為時が越前国守となったため、都を離れ田舎暮らし、20代半ばで20歳近くも歳の離れた藤原宣孝と結婚します。わずか2年で宣孝が亡くなり、彰子の女房となります。順風満帆の人生というわけではありません。そんななかで『源氏物語』が書かれたわけです。

 道長は、彰子を12歳で一条天皇の中宮として入内させます。彰子が男子を産みその子が天皇となれば、道長は外祖父として権力を振るうことができます。ところが彰子は懐妊せず、道長は焦ったはず。一条天皇には、兄道隆の娘・定子が皇后として入内しており、すでに嫡男・敦康親王が産まれています。彰子には相当プレッシャーが掛かっていたことでしょう。その彰子が入内から9年後にやっと懐妊します。道長は有頂天になったはず、男子が生まれれば道長の野望は成就します。

藤原道長(966~1028)
 道長は藤原北家の当主・兼家の5男に生まれます。兄2人が相次いで病死し、藤原北家の当主の座が回ってきたという強運の持ち主。この時疫病によって公卿の上位8人中6人が亡くなり、生き残ったのは道隆の嫡男・伊周と道長だけだったといいます。道長は藤原氏一族の長となり、翌年には「長徳の変」で伊周が失脚し、道長の天下となります。
 一条天皇の后で兄道隆の娘定子が亡くなります。道長は、彰子に男子が生まれなかった時のことを考え、定子の子・敦康親王を彰子に育てさせます。そんな時に、彰子が入内9年目にやっと懐妊します。『日記』にある安産祈願の読経は、男子誕生を願う道長の必死の思いがこもっていた筈です。無事男子が誕生し、男子は後一条天皇となって道長は外戚、摂政の地位に上り詰めます。
 道長の孫・敦成親王は、一条天皇の嫡男・敦康親王を差し置いて何故天皇になれたのか?。敦康親王の外祖父道隆は既に亡く、道隆の嫡男・伊周は「長徳の変」で失脚して後ろ楯を失っていたことが原因です。

年表にするとこうなります。

 988:彰子誕生
 990:兼家死去、道隆摂政になる、定子入内一条天皇后
 994:伊周内大臣になる
 995:道隆、道兼、流行病で死去、道長「藤原氏長者」となる
 996:長徳の変、伊周失脚
 999:彰子入内、敦康親王誕生
1001:定子死去
1002頃:『源氏物語』の執筆開始
1005:紫式部、彰子に仕える
1008:一条天皇『源氏』を読む、彰子、敦成親王を出産
1009:彰子、敦良親王を出産
1011:一条天皇譲位、三条天皇即位、敦成親王東宮となる
1016:敦康親王、後一条天皇として即位、道長、摂政となる

著者によると

道長は病気の流行や好敵手の自滅など、偶然の出来事によって地位を得た幸運の人であるように見えます。が、そればかりではありません。チャンスを捕まえるには十分な準備が必要であり、また一旦手に入れた座を保つには実力が必要です。道長はそれらを兼ね備えた、意志と周到さと実行力の持ち主だったと言えるでしょう。

無事これ名馬、運も実力うち、です。→続き


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