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半藤一利 昭和史 1926-1945 ③ 満州事変 (平凡社) [日記 (2022)]

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)
 続きです(
 「昭和史」は、満州の利権を護るために陸軍が起こした張作霖爆殺事件(昭和3年)から始まります。天皇とその側近グループは陸軍を牽制し田中内閣総辞職となり、天皇が政治に関わることはタブーだということになります(沈黙する天皇)。一方海軍は、ロンドン軍縮会議(昭和4年)で戦艦の総トン数が制限されたため、統帥権干犯問題を起こし、天皇を持ち出せば政治が軍事に介入できない聖域が出来上がります(魔法の杖)。この2つで軍の暴走が始まり、日本は太平洋戦争へと走り始めます。著者が「昭和史の諸条件は常に満州問題絡んで起こる」と書く様に、1945年迄の昭和史のkeyワードは「満州」と「天皇」です。

 昭和3年:張作霖爆殺事件、石原莞爾 関東軍へ
 昭和4年:世界恐慌
 昭和5年:ロンドン軍縮条約(統帥権干犯問題)
 昭和6年:満州事変(柳条湖事件)、チチハル占領
 昭和7年:錦州占領、山海関に進出、上海事変、血盟団事件、満洲国建国
       5/15事件リットン調査団、国際連盟 日本の満州撤退勧告
 昭和8年:国際連盟脱退

満州事変
 昭和6年9/18、関東軍は柳条湖事件を起こして戦争を始めます。中国兵が満鉄の線路を爆破し、関東軍が反撃した事件ですが、実体は自作自演。関東軍は、11/18にはチチハル、翌年1/3に錦州を占領、山海関に日の丸を立ててしまいます。満州は日本の生命線である」という国民の支持と、石原莞爾の満州を傀儡国家にしてしまえと云う『満蒙問題解決案』とが背景です。当時の中国は四分五裂の状態(南京の蒋介石・国民政府、広東の汪兆銘、共産党の毛沢東、軍閥の張学良)、関東軍はその間隙を突いたわけです。明らかな侵略ですから、日本は満州から世界の目を逸らせようと上海事変まで起こします。

 上海事変は、板垣征四郎と石原莞爾が、上海日本公使館の田中隆吉中佐に金を渡し起こさせた事件です。「なにかあった時は、頼むから上海で事件を起こしてくれ。そうすると世界の目がそっちにいく」と言い渡していたのです。

(軍)中央からもらった二万円で、(田中は)自分の愛人で「東洋のマタ・ハリ」と言われている川島芳子も使って中国人に金をまき、事件を起こす算段をしました。そして一月十八日、ついに事件は起きます。日蓮宗の坊さん二人が信徒三人を連れて上海の街をと托鉢して歩いている時、襲撃し、二人が死に、三人が重傷を負う…。
・・・この時、満州の関東軍はさらに「しめた」というので、本庄軍司令官を中心に、北部のハルビンを取ってしまおうと攻撃を開始します。

 「東洋のマタハリ」まで登場するスパイ映画もどきの謀略です。川島芳子は、本名愛新覺羅顯㺭で父親は清朝の皇族だというのですから、昭和史の登場人物としてはピッタリ。余談ですが、上海事件は、カズオ・イシグロの『わたしたちが孤児だったころ』、イシグロ脚本の映画『上海の伯爵夫人』の舞台です。

朝日新聞は(満州事変を)華々しくうたい上げます。「平和の天子の如く旭日を浴びて皇軍入城す」 「皇軍の威武により、満洲新時代に入る」 とにかく新聞は売れるし、国民はみな喜ぶ から、新聞は相変わらず 太鼓を打ち鳴らします。

錦州爆撃を聞いて「自分の代に大戦争が起こるのであろうか。それが日本の運命なのか」と鈴木貫太郎侍従長に嘆いた天皇までが
「 関東軍はよくやった」という内容の勅語を発します。・・・柳条湖事件は自衛戦争である、チチハルや錦州の占領も「 皇軍の威武を中外に宣揚したもの である」と…。

 日本は、僧侶が中国人に殺され、居留民保護の名目で2万を越える軍をおくりこみ、派遣軍は中国軍を駆逐します。天皇は派遣軍の司令官に上海事件の不拡大を命じ、停戦協定を結びます。陸軍中央は、なぜ勢いに乗じて南京まで攻めて行かなかったのかとこれが不満。内閣および重臣(君側の奸)を倒すべきだ→と犬養首相暗殺を決行します(5/15事件)。狙われたのは元老西園寺公望、内大臣牧野伸顕、侍従長鈴木貫太郎の三人血盟団事件などが起こっていますか下地はあったわけです。

五・一五事件の結果として、日本の政党内閣は息の根を止められた。さらに、軍人の暴力が政治や言論の上に君臨しはじめる、一種の「恐怖時代」がここに明瞭にはじまる。

となり、二・二六事件に至ります。

満州国
 石原莞爾の『満蒙問題解決案』は、満州の資源を活用し国力を蓄え「世界最終戦争」に備えることを説きます。これを受けて参謀本部は「 満蒙問題解決方策 大綱」を策定し、満州事変、上海事変を起こし、昭和7年、満州国が誕生します。執政は清朝最後の皇帝(ラストエンペラー)溥儀。
 あからさまな傀儡国家というわけにはいきませんから、東三省(奉天省、吉林省、黒龍江省)から指導者を集め、三省の自発的な発議という形をとって独立宣言がなされます。ウクライナで、親ロ派を焚き付け住民投票によって東部2州を親ロシアの傀儡「人民共和国」をでっち上げようと云う戦略が進行中の様ですが、やることは今も昔もイッショ。

 満州事変にしろ満州国建国にしろ、日本の謀略でからバレないはずがない。リットン調査団が組織され、満州事変が日本の謀略か、満州国は日本の傀儡国家であるかを調べ、結論は黒。国際連盟は日本の満州国からの撤退を要求します。昭和8年3月、日本は国連から脱退して「栄光ある孤立」を選択します。

タグ:読書 昭和史
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