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再読 浅田次郎 輪違屋 糸里 [日記 (2022)]

輪違屋糸里 上 (文春文庫) 輪違屋糸里 下 (文春文庫)  浅田次郎の新選組三部作、『壬生義士伝』『輪違屋 糸里』『一刀斎夢録』の一巻です。壬生浪士組の内紛、芹沢鴨一派の粛清を、島原輪違屋の芸伎で土方の想い人・糸里、平山の情人の桔梗屋の吉栄、芹沢の情人・お梅、壬生郷士・八木家の女房・おまさ、前川家のお勝の視点から描かれます。この5人は、いずれも近藤一派の芹沢暗殺現場にいた女性ですから、『輪違屋 糸里』は芹沢粛清の物語です。

 本書では、糸里は土方に惚れ土方も糸里を憎からず思い、周囲もそれを認めているという設定です。その糸里が何故平間と同衾し、芹沢暗殺事件に巻き込まれたのか?。この謎がストーリーを牽引します。

 輪違屋の音羽太夫が芹沢鴨の無礼討で斬り殺されます。芹沢は、水戸天狗党の生き残りで、京都守護職会津藩の「お預かり」浪士組の局長。どの小説でもそうなんですが、商家から軍資金を強要し、不逞浪士ばかりか庶民まで惨殺する酒乱で性格破綻者。浪士組は京都の治安を護る警察機関です。千人からの藩士を京都に駐屯させている会津藩が、わずか23人の浪人を雇う不思議を、八木の女房のおまさが解説します。

会津さんが浪士組をお預かりにならはったいうのんは、みなさんがお強いからいうことだけやのうて、ほかにわけがあるのやないかて思うんどす。 会津さんはお手を汚しとうはないのと ちゃいますか。のちのち恨みを買うたら かなんさけ、人斬りのお務めは浪士組にさせるのとちゃいますか。もし、そないな心積りでいたはるのなら、浪士組は とことん町衆に毛嫌いされる悪者のほうが都合ええのんどすやろ 芹沢はんがあないな無体をしやはったのにお構いなしいうのんは、悪者のほうがええいうこっちゃと、わてには思えますのやけど(上 p173)

 毒をもって毒を制すというわけで、「壬生浪(みぶろ)」と蔑まれ京都で嫌われれば嫌われるほど会津藩にとっては都合がいいわけです。これが音羽太夫を斬り殺した芹沢を「お構いなし」とした理由です。

 8月13日に芹沢は御所に近い大和屋を焼き討ちします。裏に会津藩の指示があったというです。長州が天皇親政のクーデターを計画しているという噂が流れます。会津藩は京都勤番の交替で国許に向けて出発させた兵を呼び戻す必要が生じ、そのため京都で事件を起こすしたと云うわけです。大和屋焼討事件の5日後に「八月十八日の政変」が起こっていますから、ナルホド。浪士組は完全武装で政変に出動し、その功で会津藩は「新選組」の名前を与えます。
 会津藩主からお呼びが掛かり、狼藉が目に余る芹沢を斬れという指示が出ます。芹沢をけしかけたのは会津藩ですが、もはや利用価値がなくなった、新選組は近藤が率いればいいと云う判断です。多くの小説では芹沢暗殺は近藤一派よる「粛清」ということになっていますが、裏に会津藩いたという新説。一般に、芹沢鴨は傍若無人の酒乱、性格破綻者の様に描かれていますが、本書では新選組の基礎を築いたのは芹沢です。お梅、おまさ、お勝によると、謹言実直だか世事に疎い近藤、人間の皮を被った鬼の土方、剣と愛嬌の他には何の取り柄も無い沖田、とヒーローも形無し。本書は芹沢鴨復権の書です。
 『輪違屋 糸里』には、近藤勇以下お馴染みの面々が登場しますが、主役は女たち。糸里、吉栄、おまさ、お勝、お梅の5人。彼女たちが新選組の男たちを棚卸し「世の男すべては、女のやさしさを食ろうて生きている」と嘯き、男もまた、

どうやら女というのは、剣を持たずに斬り合いができるらしい・・・この戦場には、刀を持たぬ四人の女がいるのだ。傍観者でもなく、犠牲者でもない、明らかな戦の当事者として...。

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八木邸の芹沢鴨の殺された部屋      前川邸

タグ:読書
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