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先崎彰容 吉本隆明 共同幻想論 (3)-2 (2020NHK出版) [日記 (2022)]

吉本隆明『共同幻想論』 2020年7月 (NHK100分de名著) 道徳の系譜学 (光文社古典新訳文庫)  続きです。
債権者、債務者
 氏族的共同体 → 部族的共同体(大和朝廷)に移行するトリガーは何か?。吉本は、道徳が何故生まれたかを考察したニーチェの『道徳の系譜』を援用します。ニーチェは人間関係を債権者と債務者の関係と捉え、「善-よいこと」施す側を債権者、施される側を債務者と考えます。スサノオ神話を例にとると、農耕をもたらしたスサノオは債権者、その利益を享受した原始農耕共同体の人々は債務者となります。

原始的な種族共同体の内部では、現在の世代はつねに先行する世代、とりけ種族草創期の世代にたいし、義務を感じています。祖先の犠牲と功績のおかげで今の自分たちがあるという確信が、祖先に同じ犠牲や功績を返済せねばならぬという負債意識を生みだすからです。つまり債務者と債権者のような関係が出来あがってしまいます。 では祖先に対し、どうやって債務を返済すればよいのか。 祝祭や拝礼、飲食物の供与が考えられるでしょう。 (p79)

 債務を返済すべきスサノオは罰を得て追放されます。人々は返せない債務を背負って生きねばならず、この負い目を解消するためにスサノオを祀る祭儀を始め、スサノオを祭神とする共同幻想が生まれたと云うわけです。ユダヤ民族の解放を唱えたイエスはローマ帝国に磔刑にされて神の子となり、冤罪で流された菅原道真も天神となったことが連想されます。「墓」を作ることも同じ位相と考えてよさそうです。共同体の先祖に対する〈良心の疚しさ〉=負い目=債務意識を解消するために祝祭や拝礼、飲食物の供え(供養)が行われ、祖先は神という共同幻想となります。

だが、それで祖先への充分な返済がなされるだろうか? この疑念がなお残り、そして大きくなる。(略) 祖先とその威力とにたいする恐怖、祖先にたいする負債の意識は、この種の論理にしたがって、種族それ自体の権力が増大するにつれ、また種族全体がいよいよ勝利を博し独立を増し尊敬され畏怖されること大となるにつれて、かならず必然的に増加する。(略) かくしてついに祖先のすがたは必然的に一個の神に変えられてしまう。ニーチェ『道徳の系譜』)

刑法の成立、国家の成立
 『魏志倭人伝』には、邪馬台国では法を犯す者は、妻子の没収や一族滅亡の罰が下される記載があり、『隋書倭国伝』には、推古天皇の時代になると殺人や強盗、姦淫は死罪となり、流罪や拷問に関する記載があるそうです。刑法が誕生しています。
 国家成立以前の古事記の時代、畔離ち、溝埋みなど農耕に関する「天つ罪」と、上通下通婚(近親相姦)、獣姦などの「国つ罪」がありました。天つ罪は農耕社会が生まれて現れた罪で、天つ罪は農耕社会誕生以前から存在する禁制ですから天つ罪、国つ罪は罪の原形と考えられます。その罪に対する罰は、共同体からの追放や髪爪を切る「祓い」であり、共同体の秩序が目的であり、罰が鞭叩きなどの個人には及んでいませんから禁制です。

 スサノオは「天つ罪」を犯し高天原を追放されました。追放は共同体の秩序を護る意味合いが強く、「国つ罪」は祓い清めによって回復されましたが、刑法の成立によって罰は財の没収や死罪など法を犯した個人への罰となります。刑法の成立は、スサノオの神話的な共同幻想から、もう一段完成度が増した国家の共同幻想となります。罰を執行する(国家)権力が成立したということです。
 オキナガタラシ姫の神託を無視した仲哀天皇が罰を受けて死ぬという仲哀天皇とオキナガタラシ姫の神話は、罰が禊祓から刑罰に移る過渡期の神話だといいます。

 共同幻想の最終形態である「国家」は、刑法によって具体化したということです。国家の成立と刑法の制定はどちらが先かというものではなく、相互補完的に成立したのでしょう。

《まとめ》
 男女の性的な結びつきによる対幻想は、狩猟、農耕など共同作業が必要とされるようになって集落という集団が生まれ、祖先のお陰で今の自分達が在るという負い目によって祖先を祀るという行為に発展します。祖先崇拝にスサノオのような象徴が生まれ、祖先崇拝は集団に共通の神を祀る共同幻想がうまれます。一方で、集団の秩序を維持するために禁制があり、集団の成長とともに禁制が刑法となり国家の原型が生まれた、そういうことだと思われます。何となく分かったので、吉本の『共同幻想論』に取り組んでみます。

ここまでの経緯
1)戦争体験、2)家族・私有財産・国家の起源、3)遠野物語、4)古事記、5)刑法(このページ)

タグ:読書
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