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浅田次郎 兵諫(2) (2021講談社) [日記 (2022)]

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          張学良と蒋介石
西安事件(1936.12.12)
 続きです。作者は、同じ1936年に起きた二二六事件と西安事件を兵諫と断じます。
 西安事件とは、西安で東北軍司令官・張学良が国民政府のトップ蒋介石を拉致監禁し、共産党の討伐停止などの要求を突きつけた事件です。満州事変で行き場を失った張学良と東北軍は、蒋介石と手を組んで共産党と戦っています。戦局が膠着するなか張学良・周恩来会談が行われ、「抗日救国協定」を結び停戦となります。業を煮やした蒋介石がハッパをかけに西安に来たところを拉致監禁したわけです。

 大倉商事の営業課長の肩書で上海で諜報活動に携わっている志津大尉に、朝日新聞記者・北村修治、NYタイムスのジェームス・ターナーが加わります。
 西安とは通信と交通が遮断され、張学良がクーデター(兵変)を起こし蒋介石は殺されたという噂が飛び交います。志津は、張学良によるクーデターなら蒋介石を生かしておく理由は無くその死をいち早く公表して、クーデターの成功を宣言する筈であり、蒋介石が殺害されたのなら国民政府軍は反撃する筈。奉天軍と国民政府郡の戦闘が起きていないことから蒋介石は生きていると判断します。
 
そう。政権奪取という意味ではない。だが、蒋介石の身柄を拘束して、説得をするというのなら、やはりクーデターと言えるでしょう。 力ずくで国家の方針を変えるのですから。
 
 張学良は蒋介石に、国共内戦の停止と抗日(内戦停止・一致抗日)を柱とした8項目を要求し、蒋介石はこれを飲んで解放されます。日本が侵略して来ようという時に身内で争っている場合か!と云う張学良の主張が通ったわけです。西安事件は第二次国共合作を促し、日中戦争の勝利に繋がります。西安事件は、ニニ六事件と同様に救国を掲げた張学良の「兵諫」だと言うのが作者の見解です。国民政府軍の副司令官の張学良が総司令官である蒋介石を監禁し方針の変更を迫ったわけですから、クーデターです。蒋介石を殺さず権力奪取も行わず、8項目の要求を飲ませ、張学良は投降します。クーデターを起こしたわけですから、張学良は反逆罪で軍事裁判にかけられ禁固50年の刑を言い渡されます。本書では、張学良の軍事裁判の代わりに張学良の護衛官・陳一豆大佐の裁判が描かれます。
 
(陳一豆)兵諫が成ったのであれば、潔く罰を受けねばならぬと(張学良は)お考えになったからであります。 もし明日の法廷において、救国の英雄に苛酷な宣告がなされるのであれば、蒋委員長の権威は地に堕ちます。 亡国の内戦が勃発いたします。
(裁判長)何ということだ。張学良は蔣委員長を人質に取って国策を変え、次にはみずから人質に取られて、その策を実行させる。これは美談などではないぞ。究極の謀略だ。
(陳一豆)いえ、閣下。これは兵諫であります。
 
 著者が「漂泊の貴公子」と呼ぶ張学良は面白い人物です。父親の張作霖が暗殺され27歳で東北軍の総帥となります。中国人同士が争う愚を悟り1928年には北伐の蔣介石に降伏して軍門に下ります。中国を統一するのは自分ではなく蒋介石だと考えて身を引いたかたちです。西安事件を起こして蒋介石に中国の統一を促し、自らは反逆者として罪を被ります。軍閥の長として国民政府と戦って中原に覇をとなえていい筈ですが、自らは近代中国建設の捨て石となります。西安事件によって懲役10年の刑を受け、戦後は台湾に軟禁され1980年代にハワイに隠棲して100歳で亡くなっています。
 
 余談ですが、wikiに個人的に面白い記述があります。
 
当時、朝日新聞社の記者であった尾崎秀実は、スターリンが蔣介石の暗殺を望んでいないという情報を元に蔣介石の生存や抗日統一民族戦線の結成など事件の顛末を正確に予測。対支分析家として近衛文麿の目に止まり近衛の私的機関昭和研究会へ参加することとなる。(wiki)
 
 本書では、西安事件をの実態と蒋介石の生存を見抜いたのは志津大尉であり、上海で活躍する新聞記者の岡や北村が描かれます。尾崎秀実の姿を彷彿として興味深いです。

◆当blogの浅田次郎 →検索

タグ:読書
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コメント 2

David

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by David (2023-05-19 21:40) 

べっちゃん

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by べっちゃん (2023-05-20 08:00) 

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