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森万佑子 韓国併合  (1) 朝貢体制と条約体制 (2022中公新書) [日記 (2023)]

韓国併合-大韓帝国の成立から崩壊まで (中公新書 2712)  「歴史認識」は厄介な問題です。歴史をどう観るか「史観」によって180度変わります。韓国は抗日独立運動によって独立したという史観(日韓併合=悪)と、韓国の独立は日本の敗戦の結果であり朝鮮は日韓併合によって近代化されたという史観(日韓併合=肯定)が対立しています。日韓併合を悪とする歴史認識で朝鮮史を解釈すれば「好太王碑」の時代から日本は半島に侵略を繰り返してきたとなり、「従軍慰安婦」「徴用工」の問題が生まれます。イデオロギーによって書かれた歴史です。2000ページにおよぶ山川出版の『朝鮮史』を読んでみても、「植民地支配下の朝鮮」辺りになるとそれまでの客観的な記述が一転してイデオロギーが顔を覗かせます。

韓国併合について、歴史の基礎的な事実を提供する。特に大韓帝国の歴史に注目しつつ、韓国併合への過程を論じる。

とい本書を読んでみました。

 ーー 目次 ーー
序 章 中華秩序のなかの朝鮮王朝
第1章 真の独立国家へ―一八九四~九五年
第2章 朝鮮王朝から大韓帝国へ―一八九五~九七年
第3章 新国家像の模索―皇帝と知識人の協和と不和
第4章 大韓帝国の時代―皇帝統治の現実と限界
第5章 保護国への道程―日露戦争前夜から開戦のなかで
第6章 第二次日韓協約の締結―統監府設置、保護国化
第7章 大韓帝国の抵抗と終焉―一九一〇年八月の併合へ
終章 韓国併合をめぐる論争―歴史学と国際法

[朝貢]体制と[条約]体制
 著者は、 李朝末期の朝鮮を、500年にわたって続いた「朝貢体制」に西洋列強が持ち込んだ「条約体制」が浸透する過程と捉えます。朝貢体制とは中国との(儒教による)上下関係を明確にした「中華秩序」に組み込まれた政治・外交の体制です。(日本を含む)西欧は、その朝貢体制に日朝修好条約、朝米修好条約などの対等な国家間の秩序を突き付けたわけです。日本は、ペリーの来航によって西欧文明と条約体制を受け入れ明治維新となりますが、朝鮮は、李朝500年の中華秩序から容易に抜け出せなかったようです。その好例が日本との「書契問題」です。
 1868年日本が明治新政府樹立を伝える書簡を送ると、「皇」や「勅」は中華皇帝にのみ許るされる文字であると受け取りを拒否します。日本の書簡は中華秩序に反するものだったわけです。この書契問題には後日譚があります。朝鮮は、後日日本との関係改善を目指し書契を受け入れる決断をしますが、

再度、書契を届けに来た日本側使節をもてなす宴会で、日本側が西洋式の大礼服を着用し、洋式に基づいた対応をすると主張したからだ。西洋式に服制改革をした明治日本にとって、洋服着用は近代国家としての体面に関わるものだった。 他方、朝鮮にとっては、明朝中華の服制こそが正式のものである。朝鮮で催される交隣の日本との宴会で、西洋式の衣服の着用を認めることは、夷狄・禽獣 の文化を受け入れることを意味する。高宗は明朝中華をモデルにした衣冠の堅持を重視した。結局、日朝交渉は決裂。(p22)

中華秩序が宴会での服装にまで及ぶわけです。その後日朝修好条規、米朝修好通商条約を結び、朝鮮も「朝貢体制」を引きずりながら徐々に条約体制へと踏み出します。

属国
 「日朝修好条規」の第一条には「朝鮮国は自主の国であり、日本国と平等の権を保有する」と記され、日朝双方は朝鮮は中国の属国だが内政外交では自主という了解の下で条約を締結します。日朝修好条規は日本側に有利な不平等条項を盛り込んだ条約であり、日本は清との関係を考慮して宗属関係をあえて否定しなかったようです。著者は

朝鮮は長期間にわたり中国の「属国」だった。しかし、それは条約体制のもと近代国際法における保護国や植民地を意味しない。朝鮮の内政外交の自主は保たれていたからだ。のちに日本が大韓帝国に行う保護国化や植民地化とは大きく違う。(p16)
 
この「属国」を中国はどう見ていたのか?。日本に続いてアメリカとも修好通商条約が結ばれます。フランスのベトナム侵攻、日本の琉球統合があり、朝鮮、新疆やチベットなどの「属国」護持に危機感を募らせていた中国は、西欧の侵略を防ぐため宗主国として朝鮮の条約締結を進めます。朝米条修好通商条約の正文には「朝鮮は中国の属国、内政外交は自主」との文言はありませんが、

清は米朝の条約調印に立ち会いながら、挿入できなかった「属国自主」条項の代替案を考えた。それは、条約締結時に朝鮮国王がアメリカ大統領に送った「朝鮮は中国の属国であり、内政外交は自主である」という書簡となる。一八八二年五月に締結された朝米修好条約に続いて、朝鮮は同年にイギリス、ドイツとも同様の条約を結んだ。(p27)


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