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森万佑子 韓国併合 (3) 甲午改革、露館播遷 (2022中公新書) [日記 (2023)]

韓国併合-大韓帝国の成立から崩壊まで (中公新書 2712)
朝鮮紀行 (講談社学術文庫)
 続きです、ちょっと脱線。
 本書は、副題に「大韓帝国の成立から崩壊まで」とあるように政治の話が主で、朝鮮国民の話はありません。壬午軍乱 →甲申政変 →甲午農民戦争を自ら解決出来ず清に助けを求める「属国・自主」の国で、庶民はどんな暮らしをしていたか?。甲午農民戦争から大韓帝国成立の1894〜1897年に朝鮮を旅行し、高宗、閔妃、大院君にも会ったイギリスの旅行家イザベル・バードは、『朝鮮紀行』で当時の朝鮮の姿をリアルに描いています(本書にイザベラ・バードは登場しません)。

イザベラ・バード
 李氏朝鮮は、中国を模した絶対王権で、国民は3%の両班と役人により搾取されていたと言います。

 朝鮮の災いのもとのひとつにこの両班つまり貴族という特権階級の存在がある・・・両班に求められるのは究極の無能さ加減である・・・非特権階級であり、年貢という重い負担をかけられているおびただしい数の民衆が、代価を払いもせずにその労働力を利用するばかりか、借金という名目のもとに無慈悲な取り立てを行う両班から過酷な圧迫を受けているのは疑いない。

搾取は年貢だけではなく、強制労働、法定税額の水増し、訴訟の際の 賄賂要求、強制貸し付けがあると言います。

 朝鮮国内は全土が官僚主義に色濃く染まっている。官僚主義の悪弊がおびただしくはびこっているばかりでなく、政府の機構全体が悪習そのもの、底もなければ汀もない腐敗の海、略奪の機関で、あらゆる勤勉の芽という芽をつぶしてしまう。職位や賞罰は商品同様に売買され、政府が急速に衰退しても、被支配者を食いものにする権利だけは存続するのである。

書きたい放題ですが、全羅道から起こった甲午農民戦争も役人の腐敗から起きていますから、当たらずと云えど遠からずなのでしょう。内乱を鎮圧できず、国の統治もできない李氏朝鮮はとても近代国家とは言えず、おまけに国王・高宗は国民を捨ててロシア公使館に逃げ込む(露館播遷)わけです。

 身分制度は、両班(科挙合格者)・中人(官僚)・常人(農民、商工人)・賎人の4つに大別され、賤民には七般公賤、八般私賤があります。私賤は主人の財産として人身売買されたようで奴隷制が存在したわけです。この身分制度は、日本が主導した1894年の甲午改革で撤廃されます。李朝の庶民は暮らし辛かったようです。

甲午改革
 日本は、下関条約で朝貢体制から脱した朝鮮の近代化に着手します。甲午改革です。

 甲午改革は、政治制度、財政・金融制度、地方制度、軍事制度、警察制度、教育制度の広範にわたった。日本の明治維新をモデルに企図した甲申政変の精神を継承し、かつ日本政府の人的・財政的支援を受けて行われた。甲午改革は日本式の近代化モデルを朝鮮に移植した改革と言うこともできる。(p48)

 朝鮮は絶対王政で権力は高宗に集中しています。この権力を巡って「勢道政治」が常態化し、大院君と閔妃の権力闘争を生むわけです。また財政は、王室が政府から独立した会計を持ち、歳出入が不明で破綻状態。貨幣の改鋳を行って差額を王室に入れるという有様。甲午改革では、王権を制限し政治の分離が行われ科挙や身分制度を廃止し小学校を設置するなど教育制度の改革も行われます。これが実効をあげれば朝鮮は近代国家となったわけですが、李朝は王権を制限する日本主導の改革に抵抗し、裏でロシアに接近します。

閔妃暗殺(乙未事変)
 高宗の后、閔妃はロシア公使とともに日本勢力を追い払おうと画策し、日本は閔氏一族と対立関係にあった高宗の実父大院君を担ぎ出すことを計画。1895年10/8未明に王宮に侵入し、閔妃を殺害します。国王の后を暗殺するという暴挙に出るほど、日本は朝鮮とロシアの接近を恐れていたことになります。

 王妃は害にあい、仰向きになりて、フウフウと息をして、こと切れの時なり。 佐瀬〔 熊 鉄。警務庁嘱託医師〕 来りて、ハンカチにて傷口を何寸とて計りたり。王妃はこの時すでに逃れんとして逃れられず。壮士は皆、写真をもってその顔を見合わせんとす。王妃は両手にて顔をおおいたり。 (『朝鮮王妃殺害と日本人』)(p71)

 日本が日清戦争まで起こして朝鮮の独立を目指したのは、ロシアの南下を恐れたためであり、そのロシアと手を結ぶ李朝の動きを阻止したかったわけです。
 閔妃暗殺と甲午改革は、反日・反近代化の「義兵闘争」と「露館播遷」を生みます。后を殺された高宗は恐れをなして1年間ロシア公使館に逃げ込みます。宗主国を清→日本→ロシアと乗り換えようとしたわけです。

 元大統領・朴正煕はこの李朝を、

四色党争、事大主義、両班の安易な無事主義な生活態度によって、後世の子孫まで悪影響を及ぼした、民族的犯罪史である。今日の我々の生活が辛く困難に満ちているのは、さながら李朝史(韓国史)の悪遺産そのものである。(『韓民族の進むべき道』)

と評価しています。漢江の奇跡」を主導し民主化運動を弾圧して暗殺された朴正煕は、朝鮮・韓国の宿痾を見抜いていた事になります。

1) 朝貢体制と条約体制 2)日清戦争 3)甲午改革、露館播遷 4)高宗と独立協会 5)朝鮮から大韓帝国へ (6)日韓議定書、日韓協約 (7)高宗の譲位、伊藤博文の朝鮮政策 (8)日韓併合、歴史認識


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