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橋爪大三郎、大澤真幸 おどろきのウクライナ (2)(2022集英社新書) [日記 (2023)]

おどろきのウクライナ (集英社新書)  続きです、「第4章 もっとおどろきのウクライナ」から。著者お二人によると、ロシアをロシアたらしめているものは、ロシア正教地政学だそうです。

ロシア正教
 5/9のロシア「戦勝記念日」のパレードが大幅縮小されて話題になりました。ロシアが2000万人の犠牲を払ってナチスを退けた戦勝記念日は、ナショナリズムの希薄なロシアにとって、国を一つにまとめる唯一のものだそうです。
 問題はナショナリズム。ヨーロッパ各国にはこのナショナリズムがあり、それを束にした、ヨーロッパ=自由、民主主義、人権を掲げる「西側」が存在するわけです。ではなぜロシアには西側の自由、民主主義、人権が無く(無いわけではないが)ナショナリズムが希薄なのか。それは、ヨーロッパとロシアのキリスト教の違い、西方教会と東方教会の違いに起因すると言います。

 西方教会は西ローマ帝国をパトロンとし、東ローマ帝国はビザンチン帝国(東ローマ帝国)をパトロンとした。西ローマ帝国は、五世紀にすぐ滅んでしまう。ビザンチン帝国のほうは一五世紀まで存在した。 ロシア帝国は、その流れをくんでいる。
 なぜ帝国のあるなしが、 教会にとって大事かというと、教会は武装していないのです。教会は、武力を持っていない。 原則、軍事力を持っている国王や貴族と、教会とは別々なんです。国王や貴族が、武力を持っているということは、泥棒だということです、潜在的に。教会財産を狙っている。これに対抗するのに、軍事力が使えないなら、頭を使わなければならない。(国を跨いだキリスト教のネットワークなどの)・・・のソフトパワーによって、軍事力をコントロールする。そうやって、自律性を高めてきた。これが、西側の教会の知恵なのです。こういう社会で生きる人びとは、どう思うか。(軍事力と信仰や良心は)別々のものである。こういう人間類型ができ上がる。そこで、宗教改革も可能になるし、哲学や科学も発達する。(p210)

 ちょっと分かり難いですが、お二人の対談『ふしぎなキリスト教』に呼応しています。
 宗教改革の方は、カルヴィンの「救済予定説」が資本主義を産みます(マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』)。哲学と科学は、神の創った自然、人間を探求し、神の意図を知ることで神に近づこうとし、ここからコペルニクス(カトリック司祭)、ケプラー、ニュートンが生まれ、理性を人間社会に適用してスピノザ、ルソー、カントが生まれ、ヘーゲル、マルクスがうまれます。宗教改革の無かった正教会からは資本主義は生まれず、哲学、科学の発達も無かったわけです。

 何故無かったのか?、西方教会では、キリスト教団が領主や国王と渡り合って教義や信仰を磨いてきた、そこに哲学や科学の発達があった。正教会の方は政治権力と結びつき、権力が教会を保護し教会が権力を正当化する持ちつ持たれつの政教一致の関係となります。
 絶対王政とそれに結び付いたロシア正教はの下では、国をひとつにまとめるナショナリズムは必要ないわけで、多様性のせめぎ合いのないロシアではイデオロギーが育たなかった言うのです。ウクライナ戦争では、ロシア正教はプーチンの侵攻を支持しています。

→地政学へ

タグ:読書
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