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現代史資料 1 スパイ・ゾルゲ スパイマスター  [日記 (2023)]

スクリーンショット 2023-05-31 6.29.37.png ドイツ大使館
スパイ・ゾルゲの昭和
スパイマスター
 「諜報方法は如何?」と検事に問われ、ゾルゲはこう答えます。

元来諜報機関の長たる者は自分自から積極的な情報や資料の蒐集をせず、専ら自分の成員に対して指命を発して色々な諜報活動を遂行させ、斯くして集められる各種の情報をば綜合判断して一定の報告を取纏めるのが普通一般の遣り方でありますが、私は之に反して自分自から諜報活動の先頭に立って独大使館を中心に各種の貴重な情報や資料を蒐集した訳でありまして、私の此の独大使館内に於ける諜報活動は既に申上げた通り殆んど完全に近い合法偽装の下に遂行されたのであります。 (249)

 ゾルゲ諜報団には、無線担当で赤軍参謀本部所属のマックス・クラウゼン、写真担当でアヴァス通信(AFP)の記者ブランコ・ヴーケリッチ、近衛内閣嘱託で朝日新聞記者・尾崎秀実、アメリカ・コミンテルン出身の画家・宮城与徳などがいます。尾崎は、独ソ戦の勝利を決定付けた日本の南進政策を掴み、宮城は軍事情報を蒐集します。それぞれ重要なパートを担いますが、ドイツ大使館に食い込みバルバロッサ作戦、日独防共協定、三国同盟などの情報をスクープしたのはスパイマスター・ゾルゲ自身です。「自ら諜報活動の先頭に立って」と自負する所以です。

スパイの方法
 ドイツ大使館という組織、閉鎖集団の中で、一ジャーナリストのゾルゲが如何に情報収集したのか?。

即ち、其の諜報方法としては先づ最も簡単な方法として議論、相談、資料の研究等の方法を使ひ、次にはより大きな情報を得んが為に小さな情報を提供すると云ふ方法、換言すれば小さな情報を餌にしてより大きな情報を聞出すと云ふ方法を用ひたのでありました。そして入手した之等の情報や資料を保存する技術としては記憶したり、紙片や手帳に録取したり、又は写真に撮影すると云ふ様な方法を採ったのであります。(250)

嗅ぎ廻るのではなく相手に喋らせる誘導尋問です。人間の心理を巧みに突くのも優れたスパイの要件です。

オットの政治的協力者として独大使館内では極めて高い道徳的地位を持って居りましたので自分の方から何も働き掛けないのに拘らず、同大使や武官等から積極的に種々な問題に就て色々と話し掛けられたり、又は相談を持ち掛けられましたので、私は少しも労せずして情報を聴取することが出来ました(250)

 大使館のトップ、オットの信頼を得たことが大きいでしょう。陸軍武官、大使と親しい(オットの私設顧問)のですから、大使館員は安心してゾルゲと論議し相談することが出来ます。大使館ではオットとゾルゲを中心とした二つのコミュニケーション集団が出来上がったわけです。日本社会にあるドイツ村という閉鎖空間がこれを助長したことでしょう。
 ゾルゲはジャーナリストとして国際情勢のプロであり、日本の政治については尾崎、宮城たち諜報団のバックがあります。ゾルゲの知識と分析が遺憾なく発揮されたのが、ニ・ニ六事件であり支那事変です。

又色々困難な問題があると、先方から「我々は現在斯う云ふことを聞知して居るのだが君は聞いては居らぬか、君は之に就て如何に考へるか、」と云ふ様に情報を持って来て相談を持ち掛けられたこともありました。尚又大使等が重要な電報か報告文書を起草する場合に、予め其の原稿を私に見せて呉れ之は如何か何か意見は無いか君の意見の様に変へるなら如何に変へるのかと云ふ風に意見を求められましたので、私は極めて重要な電報や報告文書迄も諜知することが出来たのであります。
 私は又時には大使や武官等に伺って、現に日本で問題になって居る色々な事件や問題に就て私の方から進んで自分の判断や意見を申述べますと相手の方では、君の云ふことは正しいとか若くは間違って居るとか申して、色々と議論をして居る裡に確実な情報を知らせて呉れることがあり、前に申上げた様に大使や武官に頼まれて諸論説を研究執筆した際、資料を提供して貰って之を入手したこともありました。(250)

大使がスパイに重要な報告文書の添削を頼むわけです。

 例えば二・二六事件についてモスクワが重要視したのは、事件そのものよりも二・二六事件について「独逸の責任ある当路者が此の事件に対して如何に判断し、且如何に対処せんとして居るかと云ふこと」だと言います。ゾルゲは、事件の分析をオットに提供し、ドイツがどう反応したかをモスクワに報告します。オットの報告書そのものがゾルゲの分析ですから、大使館とドイツの「判断と対処」はゾルゲの掌の上です。自作自演です。

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